「バッドタイム」(監督:デヴィッド・エアー)


 近所のスーパーのワゴンセールで、廉価版が500円で売っていたため何の気なしに購入し鑑賞。が、これはちょっと今までスルーしていたのが勿体無いぐらいの異色作だったのでここに記しておく。
 映画は主人公のジム(クリスチャン・ベイル)が兵士としてアフガニスタンで夜間戦を繰り広げている回想シーンからスタートする。すぐに回想は終わり、メキシコで恋人に「嫌な夢を見た」と語りかける現在のシーンになるが、この冒頭でジムはPTSDの影響下にあることが示唆される。
 舞台はサウスセントラルに移り、親友のマイク(フレディ・ロドリゲス)とかなりベッタリ、もうウンザリするぐらいホモソーシャル臭ムンムンで、LAをブラブラと車で流すシーンへと突入する。ビールをガバガバ、クサをキメキメという具合に、このいい大人二人組の駄目な感じに嫌悪感を示す人も少なくないと思うが、その手の作品として若干毛色が違うとすれば、それは二人が求職中である、ということだろうか。この設定が以後の展開に面白いツイストを生み出すことになる。

 簡単に言ってしまえば、ジムにはFBIからのリクルートが舞い込むことになる。軍での経験を買われ、明らかに人間的に問題がある点に目を伏せ、コロンビア等の所謂「最前線」に捜査官として送り込もう、という目論見だ。このフェッズの真っ黒さには、合理的に考えれば決してありえない話ではないんだろうな…と想像してややゾッとした。
 終盤は、このオファーを受けるか否か、いや、ジムはその場で「やります」と即答するのだが、これから待ち受けるであろうハードな暮らしに、本当に俺は耐えられるのか……とった葛藤が綴られる。彼は自身のPTSD的傾向にも自覚があり、マイクやほかの友人たちにも「お前は戦争でおかしくなっちまった」と指摘される。
 華のFBIに就職すること。それは彼がなんとかして貧しい暮らしから抜け出し、メキシコに暮らす恋人と家庭を持つこと、というごく普通の願いを叶えるためのパスポートでもある。自らを奮い立たせ、コロンビア行きの決意を固めるジムだったが、恋人からあることを告げられ、彼のテンションはピークに達してPTSDの暴走が本格的に始まってしまう。

 これはイラク戦争以後を舞台に、真っ当な青春などなかった男たちの遅れてきた「アメリカン・グラフィティ」でもあると思う。ただ、そには一筋の光などは差さず、暗闇に残された者たちの後悔の念ばかりがしこりとして残るのである。

バッドタイム [DVD]

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※上記リンクのほかに、自分が購入した500円の廉価版がありますが、そちらはチャプターも特典も無ければ画質も悪いという代物なので、ご購入の際にはご注意を。