2022年公開作品ベスト10

1.ナイトメア・アリー
 オリジナル『悪魔の住く町』は未見。「40~50年代のフィルムノワールを過不足なく再構築するには?」という問いかけに対して、メインのポスターヴィジュアルに登場するケイト・ブランシェットルーニー・マーラトニ・コレットらの役柄が返答になっている。

2.スティルウォーター
 アメリカ人の監督がまず「面倒が多そう」と手を付けなそうであるし、かといってフランス人の監督も敬遠しそうな題材を、トム・マッカーシーは構想に10年かけて実現。重厚かつ込み入った物語を手中に収めるには手間暇がかかってしまう、という証左のような映画である。「何もかもが違って見える」というマット・デイモンの台詞に全てが集約される。

3.MY SALINGER YEAR(マイ・ニューヨーク・ダイアリー)
 本筋からズレるが、こういう「よくありそうな」邦題の最大のデメリットは「あとで何の話だか全く思い出せなくなる」である。最低でもサリンジャーのワードはどうにかして盛り込むべきではなかったか。マーガレット・クアリーが素晴らしい。

4.あのこと
 原作未読。「望んでいない妊娠の忌々しさ」が体感できる作品だと思うが、欧州で本作を観て気絶した男性がいた(そして監督と主演俳優が介護した)ということが、もっともっとこうした映画が必要であると雄弁に物語っているように思う。

5.グレイマン
 ポストボンド、ポストボーンの諜報映画に何が必要であるか。身も蓋もない感想になってしまうが、それは主役と敵対するヴィランの魅力に八割ぐらいはかかっているということがよくわかる(最新ガジェットや世界情勢などは二割程度で十分なのでは?)。ライアン・ゴズリングクリス・エヴァンス、アナ・デ・アルマスの、リアルタイムならではの“艶”を確認できる一本。

6.なまず
 90年代後半〜00年代初頭ぐらいに〝幾多のwhimpsterを生み出した〟USインディー映画っぽいタッチで女の側からステイトメントを発してみる、というのは物凄い皮肉に感じた。

7.LOVE LIFE
 各キャラクターが織りなす多重のレイヤーが白眉であり、共感を促すのと逆の方向で〝多様性〟が用いられる。男と女(夫と妻)がそれぞれ感情の昂りによって早足になるシーンがあり、それを手持ちカメラが追う象徴的な長回しの、それぞれで「荒ぶる」意味が全然違っていているのが興味深い。(未見の作品もあるが)今まで観た深田晃司作品で一番良い。

8.グロリアス 世界を動かした女たち
 男の場合だと「老人が青年期を振り返る」といった構成の映画は良くあるような気がするが、本作ではグロリア・スタイナムの半生を四人の俳優がそれぞれ子供〜少女〜成人〜老年期を演じている。これは言ってみれば「男よりも様々な節目で切り替えを必要とされる」という表現であるようにも思える。

9.ウェディング・ハイ
 大九明子が邦画界にとって如何に稀有な存在なのか?それは〝ちょっと変わった人〟〝個性が強い人〟を描く際に、馬鹿にしたり見下したりする感じが皆無であるという点にある。その安心〜安定感が本作でも貫かれている。

10.炎の少女チャーリー
 ザック・エフロン演じるチャーリーの父:アンディの〝押す〟という能力がどういうことなのか、劇中で具体的な説明が全く無いが、冒頭の喫煙者とのセッションシーンにおいて芝居と編集で理解できる様になっており(つまりそれは原作者のキングが常々文体で行っていることだ)、この監督:キース・トーマスの名前をよく憶えておこうと思った。

 
■次点
死を告げる女/ギレルモ・デル・トロピノッキオ/グリーン・ナイト/キングメイカー:大統領を作った男/NOPE/恋愛の抜けたロマンス/リコリス・ピザ/FLEE/声もなく/アイム・ユア・マン 恋人はアンドロイド/スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム/ザリガニの鳴くところ/ブラックパンサー:ワカンダ・フォーエバー/秘密の森の、その向こう/パリ13区/ストーリー・オブ・マイ・ワイフ/X/愛に奉仕せよ/PLAN 75/カモン カモン/シャドウ・イン・ザ・クラウド/ヴォイス・オブ・ラブ

 

それでは皆様、良いお年を!