2020年公開作品ベスト10

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.幸せへのまわり道

 未就学児向けのテレビ番組で長年ホストを務める〝ミスター・ロジャース〟と、彼の記事を任される記者との交流の物語。ロジャースの番組のセットという体で、例の〝二つの塔が象徴的に写るが、これは恐らく、たかだか20年程しか経過していないのに世界が決定的に変わってしまった分岐点というか、その前時代を描く「最後の寓話」といったような意味合いがあるのではないかと思う。

 

.燃ゆる女の肖像

 アデル・エネル演じるエロイーズの初登場シーン、ローブのフードがはだけてブロンドが覗くタイミングに見惚れていれば、以降はあっという間の122分。女と女で始まった物語にもう一人の女が加わり、そして再び二人の女の物語になる。

 

.ナイブズ・アウト

 幅広い層にアピールするミステリ・医療ドラマ・法廷ドラマなどは社会を写す〝鏡〟であるように思うので、その意味で「選挙の負けすら潔く認めない」卑劣な男が、恐怖と憎悪そして不寛容を撒き散らした4年間を総括したような映画になっていたと思う。

 

.レ・ミゼラブル

 「不正が記録されたメディアの争奪戦」という意味では寓話的な要素が強い「ブラック アンド ブルー」(後述)と共通するのだが、より切実というか、ドキュメンタリー的な手法で爆発寸前(もっと言えば実際に爆発する)の空気を的確に捉えている。

 

.ナイチンゲール

 英植民地時代のタスマニア豪将校に伴侶と子供を殺された女の復讐劇。と思いきや、蔑みながら道案内に雇ったアボリジニの男との道程は、単なる復讐譚とは一線を画す(ニューシネマ的な)奇妙な共闘の旅となる。

 

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.ウルフズ・コール

 〝ある才能に秀でた〟若者が、実地でベテラン衆に揉まれての成長譚としてまず出色だが、表題から転じる後半こそが主題であり、規律を「義理人情や信頼」で覆すことは可能なのか?というドラマがメインとなる。「若者は命と引き換えに何を失うのか?」というほろ苦い終着点も素晴らしい。

 

.スペシャルズ〜(意図不明の長い副題)〜

 全世界的に不寛容の波がどんどん高くなり各所に押し寄せる昨今(『ナイブス・アウト』もメインキャラは福祉関係に従事している)、賞賛を受けて然るべきは〝戦士であり聖人〟であるこうした人々であると思う。実話ベースの作品という観点では本年度ベスト。

 

.家族を想うとき

 終盤、妻アビーが夫リッキーの事業主に対して電話で激昂した末に泣き出してしまう〝理由〟、そこに全てが凝縮されていたように思う。「(文句は言いつつも)仕事に誇りを持って働く労働者を蔑ろにする社会はロクなものではない」というケン・ローチの主張は一貫している。

 

.ウルフウォーカー

 この手のファンタジーにしてまさか「男性性からの解放」的なサブテーマに盛り込んでいたので驚いた。それを抜きにして、ジュヴナイル物としても優れている。

 

10.ブラック アンド ブルー

 本来であればジョージ・フロイド事件〜BLMの流れを受けて社会現象になって然るべきような映画が、限定的な規模で短期間に上映終了してしまったことが悔やまれる。「不正義の犠牲となったのがたとえ犯罪者であっても殺人は殺人」という真っ当な倫理観は、萎縮した世界では脅威となり得る様を象徴的に描いている。

 

次点

ストレイ・ドッグ/ハッピー・オールド・イヤー/100日間のシンプルライフ/マルモイ/君の誕生日/ザ・ハント/パピチャ/真夏の夜のジャズ82年生まれ、キム・ジヨン/マティアス&マキシム/プリズン・エスケープ/ブリング・ミー・ホーム 尋ね人/シチリアーノ 裏切りの美学/ブックスマート/2分の1の魔法/ワイルド・ローズ/透明人間/はちどり/ANNA/グッド・ボーイズ/その手に触れるまで/若草物語/ハリエット/ルース・エドガー/在りし日の歌/羅小黒戦記/ジョンFドノヴァンの死と生/グッドライアー/フォードvsフェラーリ/家族を想うとき/燃えよスーリヤ!!

 

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疫病退散!皆さま良いお年を!