2016年公開作品ベスト10


1. 『ザ・ギフト』
2. 『ウォークラフト』
3. 『キャロル』
4. 『セルフレス/覚醒した記憶』
5. 『溺れるナイフ』

1.ザ・ギフト
 ジョエル・エドガートン初監督作。この手のサスペンス/スリラーで監督デビューした俳優というと真っ先にイーストウッドの「恐怖のメロディ」を思い出すが、あの映画と決定的に違うのは「異常なことをしてしまう人にもそれなりの理由があるはず」といった視点、「社会での勝ち組・負け組」といった要素を巧みに忍ばせている点だと思う。そしてそれはまさに、ジョエル・エドガートンという俳優が今まで関わってきたほとんどの映画に共通するテーマでもあると思う。
2.ウォークラフト
 原作であるゲームの内容をほぼ知らない状態で鑑賞。自分が所属する会社が、明らかにブラック経営に転じた/一線を越えた際に、企業戦士は何を選ぶのか、という話にも変換が可能。非常に高度な政治的判断で義を捨てなければならなかった者の悲しみ〜裏切られた者の義憤〜それが新たな戦いの火種へ〜といった盛り上がりが最高潮に達して幕を閉じるので、どうかこの一部だけで終わることがないよう、トリロジーとして続編も制作されますように……と心から願う。
3.キャロル

4.セルフレス/覚醒した記憶
 ターセムの新機軸。のっけから「アバター」的なトンデモ設定、そしてそこから「ボーンシリーズ」「ゲッタウェイ」のような逃亡劇になるので、これは一体何が起きているのだと興味深く観ていれば、ニューオリンズのブラスバンドの音像と映像の畳み掛けるようなマッシュアップ、全編冷やかでタイトなルック(デジタル以降のソダーバーグっぽさもある)、火炎放射器など楽しいアイテムも登場するわで、下手な監督が撮ればボンクラSFの域を出ることは無いであろうプロットが、中々の力作に仕上がっていて驚いた。
5.溺れるナイフ
 かなり深刻な性暴力被害がテーマの中心にある青春映画で、そうした要素が如何に人間の精神を消耗させ疲弊させるかを描いている。その事件が起こる前の、ティーンエイジキラキラ全能感は、大林宣彦のアイドル映画的な妙な雰囲気があったりする。映画の終盤にかけて、その性暴力被害を乗り越える話になるわけだが、これがかなりの力技で驚いた。ラストの二人の疾走は、なんというか「ガタカ」の切なさを思い出し、結構とんでもない監督のメジャー作デビューに立ち会っているのだな、と実感。


6. 『ニュースの真相』
7. 『人生は小説よりも奇なり』
8. 『ヘイトフル・エイト』
9. 『幸せをつかむ歌』
10. 『インサイダーズ/内部者たち』

6.ニュースの真相
 結論から言ってしまえば「失敗した『スポットライト』」という話ではあるのだけど、その負けっぷりが凄まじく鑑賞後にため息が出た。「問題の本質をスッ飛ばして些細な疑惑に囚われて議論が大幅に本筋から外れていく」という事象は、ここに描かれている04年以降、SNSやブログが普通に存在する時代に突入し、そして昨今では更に酷くなっている気がして、その源泉を見るような思いで暗澹たる気分になった。
7.人生は小説よりも奇なり

8.ヘイトフル・エイト

9.幸せをつかむ歌
 これまで「保守の不寛容さをリベラルがバカにしたり批判したりする」という趣旨の映画は多々あれど、その逆、「リベラルの、保守に対する不寛容さ」というテーマはあまりお目にかかったことが無いような気がするが、本作では正にそうしたドラマが描かれている。
 「ネットを使いこなすようになった父親や母親がFBを始め、見に行ったら見事にネトウヨ化していた」的な事例は身近でも二、三件は聞いたことがあって、でも、だからと言って断絶するわけもいかず、家族であるのだからとりあえず対話を試みないことにはいかない訳で、ある意味でブレグジット〜米大統領選イヤーを象徴する一本とも言える(そしてこの映画から学べなかった)。
10.インサイダーズ/内部者たち
 不正の告発や権力批判という、既に手垢にまみれたテーマに加えられたのが「告発者のバックグラウンド(階級やら人間性やら)が問われる」という、非常に今日の日本にも顕著な問題を扱っており、尚且つそれを大オチに用いているので、構造的にはかなり緻密な脚本と言えるだろう。本作でも肝として描かれる「政治家への性接待」という問題が今年になって法律で禁止されるなど、エンタメを用いて巧みに権力に噛み付く韓国映画人の姿勢を(自分の国の状況などと比較して)本当に羨ましく思う。


次点作品を以下に。

スポットライト 世紀のスクープ(感想)/オマールの壁/ブリッジ・オブ・スパイ/クリムゾン・ピーク/消えた声が、その名を呼ぶ/ゴースト・バスターズ/DOPE!/世界一キライなあなたに/ハンズ・オブ・ラブ 手のひらの勇気/パディントン/グッバイ、サマー/コップ・カー/ジェーン/手紙は憶えている/シークレット・オブ・モンスター/ガール・オン・ザ・トレイン


過去の年度別ベスト10



R.I.P. AY