ジム・マクブライドという監督


 先日、タランティーノもオールタイムのベストに入れるという(この人の“オールタイム”はしょっちゅう変動するので今もランクインしているかは不明)「ブレスレス」を観直す機会があったが、あまりにも面白く、監督のジム・マクブライドのことは以前から気にはなっていたが、良い機会なので、日本でも(鑑賞可能な)ソフト化されている作品を幾つか鑑賞してみた。これがどれも傑作ぞろいだったのでまとめて紹介したいと思う(上記画像はリチャード・ギアに演出を付けるマクブライド。カサヴェテス似のイケメンだと思う)。


「ブレスレス」原題:Breathless (1983)

 いわずと知れたゴダールの「勝手にしやがれ」の米翻案。ある種のエポックメイキングな作品として記憶されている映画をリメイクするということは、監督にとっては相当なリスクを伴うことだと思うが、本作においてマクブライドはそうした気負いは微塵も感じさせず、のびのびと自由に自分のヴァージョンの「勝手にしやがれ」を撮っている気がする。よく人が映画を論じる時に「映画は役者の良し悪しで決まる」というような言説を結果論的に便利に使う傾向があるが、ほぼ全てのジム・マクブライド作品にとっても(誠に申し訳ないが)これは当てはまり、キャスティングのセンスの良さ、演出のセンスの良さ、小道具の使い方のセンスの良さetc...といった具合に身も蓋も無い感想に終始してしまいそうだ。ヴァレリー・カプリスキーの美しさ、リチャード・ギアのピュアが高じてのウザさ、実際に作品を観てもらえれば一目瞭然なのだが、この魅力を上手く簡潔に言語化できる資質に私は欠けているように思う。


「ビッグ・イージー」原題:The Big Easy (1987)

 ニュー・オリンズ(別名ビッグイージー)の若き警部補(デニス・クエイド)と、その内部調査でやってきた検事(エレン・バーキン)が、いがみ合いながらも最終的にキャッキャウフフと落ち着くまで、殺人事件を絡めて描いたサスペンスタッチのラブストーリー。お話的にはどうってことのない2時間ドラマのような話を、マクブライドはこれまた軽妙洒脱に紡いでいく。前記した通り、主演の二人が好演なのは言うまでも無い。クラブでのバンド演奏・食文化など、初心者にもケイジャンのなんたるかをわかった気にさせてくれるのも良い。


「グレート・ボールズ・オブ・ファイヤー」原題:Great Balls of Fire! (1989)

 ピアノを弾きながら燃やす(ジミヘンに先駆けること約10年)ジェリー・リー・ルイスのスキャンダラスな生涯を追った自伝映画。彼のキャリアの絶頂から、親戚の13歳の少女と結婚、それがきっかけで人気が急降下していくまでを中心に描く。実際はもっとグロテスクでどん引きするようなエピソードもあったとは思うが、これもマクブライドは観客が共感できるギリギリのラインまで引き摺り下ろしてドラマを構築し、最終的には「でもやるんだよ」的なカッコ良いロックンローラーの一代記としてしまっている所に感心する。そして彼に興味を持った人が「ジェリー・リー・ルイス」でググって唖然とするまでが遠足です、という気がしてならない(特に映画で描かれた後がヒドい)。
ジェリー・リー・ルイス - Wikipedia


「レタッチ 裸の微笑」原題:Uncovered (1994)

 ケイト・ベッキンセイルが劇中、ヌードを披露しているのでこんなサブタイトルが付いているが、若き絵画修復家がある絵画の「レタッチ」に携わることで殺人事件に巻き込まれてしまう、というお話をコメディタッチで描く。原作となっているアルトゥーロ ペレス・レベルテの「フランドルの呪画(のろいえ)」は未読だが、恐らくはもっと重厚な(そして軽妙さに欠ける)感じの本格的ミステリ/サスペンスなのではないかと思う(「ナインス・ゲート」の原作者だし)。どこを切り取っても画になってしまうスペインロケははっきりいってズルいと思うし、でもそんな開放的なバルセロナの街の中、やはり役者はのびのびと良いお芝居をしている。主役のベッキンセイルはもちろん、孤児あがりの流しのチェス・プレイヤーを演じるポージ・ベーハンが素晴らしい。


と、ジム・マクブライド監督作4作品を観てみたが、どれも非常に面白い作品なので、もし近所のレンタル屋などにあった場合は鑑賞をオススメします。マクブライドは本国でもテレビ中心の仕事が多くなっているようだが、こういう本当に面白い映画が撮れる人のところに良い企画が回ってこないもんか、そうなると良いな、と、一ファンとして影ながら祈りながら結びといたします(タランティーノがバックアップしてあげれ良いと思うんだけどなぁ)。