(そろそろ)オフラインで逢いましょう「君の名は。」


 「初めて恋の告白したのは、SNSでのやりとり」という経験をしている人は、デジタルネイティブ世代ではかなりの割合をしめるのではないだろうか。こうしたSNS上のやりとりで何が可能になったかといえば、一見フレンドライクな関係を保ちながら、DMやメッセージといった機能によって、外部に決して漏れない「1対1の濃密なコミュニケーション」だろう。
 表では親しい友人的な関係を装いながら、裏ではもうほとんど「好き」と言っているに等しい状態にある、というのは、非常に「エロティック」であるように思う。
 「君の名は。」において、東京暮らしの高校生:瀧(たき)と飛騨の高校生:三葉(みつは)が交わすのは、こうしたSNS的なやりとりである。
 二人は、二人の意識と身体が入れ替わってしまう奇妙な現象に対応すべく、お互いにルールを決める。それは、入れ替わった日の記録をスマートフォンのメモ機能(?)に記す、というものである。この設定は、時間の差こそあるが、ほぼ擬似SNSであると言って良い。デジタルネイティブであればLINE、それより上の世代であればmixiやツイッターなど、想起するSNSは様々であろう。インターネットに慣れ親しんでいない人々にとっても、上記の「時間差」という要素を盛り込むことによって「携帯電話で文通のようなことしている」との変換が可能だろう。
 さて、こうした密なコミュニケーションを日々続けていれば、どちらかが気持ちを抑えられなくなり「ちょっと(オフラインで)会いませんか?」という行動に打って出るのは当然の帰結である。「君の名は。」では、二人の関係がそうした段階に移る前に、三葉側からの連絡が途絶えてしまう。
 当然、瀧としては、三葉に対する自分の想いに確証を持てないままに、オフラインで実際に「会いに」行ってしまう。そこで判明する驚愕の事実。ここで新海誠という作家は、ちょっとあざといぐらい明確に、3.11的なモチーフを用意するのだ。

 最高潮に盛り上がった恋愛パートは、未曾有の自然災害から愛する人を救いたいという新たなミッションも加えられ、観るものを否応なく巻き込んでいく。更に新海は、「かたわれどき」という便利な設定を用いて、二人を初めてオフラインで引き合わせるのだが、もうすでに「かたわれ」と出会っている人々はその出会いに想いを馳せ、まだ出会っていない者は未だ見ぬ「かたわれ」に想いを馳せるという、非常に幅広いレンジで観客のハートを鷲掴みにしてしまうのである。
 もうすでに邦画の歴代興行収入では上は「千と千尋の神隠し」を残すのみとなり、日本以外の国での上映も始まっており、概ね好評を持って迎えられているようである。SNSという要素は万国共通であろうし、終盤の軸となる3.11的要素や「くちかみ酒」といったモチーフは、よりロマンティックなオリエンタリズムとして受け入れられるはずである。オスカーの正式ノミネートや、ノミネートの先の・・・というのは、まんざらあり得ないことでもないのかも知れない。