2017年公開作品ベスト10


1. 『メッセージ』
2. 『ブレードランナー2049』
3. 『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』
4. 『20センチュリー・ウーマン』
5. 『沈黙』

 『メッセージ』『ブレードランナー2049』同じ監督が手掛けた作品がその年の1位と2位になるなんてことは、今までなかったように思う。後に評価は変わるかも知れないが“そういう年であった”記録という意味も兼ねて選出(『ブレードランナー2049』→感想)。
 『メッセージ』原作における「映像として映えない」箇所は省略し、そして新たに付け加えられた要素が全て有機的である、という奇跡的な映画になっていた。主人公:ルイーズ(エイミー・アダムス)が全てを悟った辺りから押し寄せるエモーションの波は、近年体験したことのない熱量だった。
 『ブレードランナー 2049』前作「ブレードランナー 」のロイ・バティはデッカードを圧倒的な力で追い詰め「恐怖の連続だろう?それが奴隷の一生だ」と言う。「2049」のK(ライアン・ゴズリング)は隷属性からの解放〜自我の目覚めの過程にあり、終盤「抗っても(自分にとっては)意味がない」という厳しい現実に直面するが、故にそこから彼が取る行動が観る者の胸を打つ。
 『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』この手のシリーズ物の、新三部作の真ん中にあたる作品をその年のベストに選ぶことも今までならあまり考えたことがなかったが、計5回鑑賞して全く飽きなかったので選出。シリーズ8作中、最もファンタジー色が強く、こともあろうに超ビッグフランチャイズで「指輪物語」や「ゲド戦記」などのハイファンタジーSF版をやってしまった(AT-AT=火を吹くドラゴンの群れに一人立ち向かうは伝説の大魔法使いルーク)ライアン・ジョンソンに批判が集まるのもよくわかる。
 『20センチュリー・ウーマン』ポール・トーマス・アンダーソンの「インヒアレント・ヴァイス」も西海岸を描いた映画であったが、あの世界にたむろしていたようなヒッピーの中には、数年後に「嫌気がさしてコミューンから出てしまう」普通の人もいたのであろうな、というヘンリー・カヴィルのキャラクター造形は妙にリアリティがあり、興味深かった。
 『沈黙』ロドリゴ(アンドリュー・ガーフィールド)とフェレイラ(リーアム・ニーソン)が再会を果たすシーンは、近年のスコセッシ作品でも最もエモーショナルな対話シーンではないかと思う。通辞が「今書いている本のことも教えてやれ」というと、フェレイラは苦虫でも噛み潰したような沈痛な面持ちを浮かべる。


6. 『グッド・タイム』
7. 『お嬢さん』
8. 『夜明けの祈り』
9. 『オン・ザ・ミルキー・ロード』
10. 『一礼して、キス』

 『グッド・タイム』鑑賞したのは18年になってからだが、18年のベストに選ぶのも違和感を感じたので選出。90年代後半ぐらいから所謂「下層エクスプロイテーション」のようなジャンルが確立されているような気がするが、恐らくこのサフディ兄弟はそんな作品群にあって頭が一つも二つも出てしまっている。一見すると「どうってことない一夜の話」を、ラフなスタイルで追っているだけのように見えるが、実は撮影・演出・音楽/音響など、隅々までかなり緻密な起算が成されており、長編2作目にしてこのヴィジョンの揺ぎ無さというのは驚愕に値する。今後、米映画界において、かなり重要な存在になっていくように思う。
 『お嬢さん』生粋の、あるいは育った環境によって素行不良である人間が、もう一人の眠れる「不良気質」に火をつける的な話なので、こんなに楽しい映画はないと思う。
 『夜明けの祈り』ポーランド侵攻のドサクサで修道院に押し入ったソ連兵が尼僧を集団で強姦(回想として語られるだけ)→複数尼僧が妊娠→厳格な院長は修道院の閉鎖を恐れ放置→見るに見かねて一人の尼僧が抜け出し仏赤十字女性医師に助けを求める。この濃厚な流れでまだ序盤でしかない。「考えもしなかった、ソ連兵に孕まされた尼僧のお産を受け持つなんて」とは仏赤十字医師の台詞だが、この一言に戦後のポーランドの混沌がよく現れているし、俗世と隔絶しても女というだけで最悪の形で皺寄せが行くというのが色々と象徴的である。常々(昨今の日本の酷さにおいては益々)、直視しがたい歴史に光を当てるのが映画の役割の一つの側面だと思っているので、そういう意味ではベスト1といっても良い。
 『オン・ザ・ミルキー・ロード』ミルクを飲み巨大化した蛇に絡まれる。地雷原で羊が乱舞する。その他諸々の自由なイメージに感服。
 『一礼して、キス』予告編や、2017年に公開された古澤健監督作品「リライフ」「恋と嘘」などに顕著だったティーン向け青春映画のつもりで観に行くと良い意味で面喰らうことになる。抑制された構図や人物の動きはかなり異質であり、弓道、あるいはスポーツ全般におけるフェティシズムを軸に、所謂“一般的ではない”恋愛ドラマが展開し、そしてその意図は成功している。

 以下に次点作品を。

 ローガン・ラッキー/ネルーダ/サーミの血/パターソン/エル ELLE/アイ・イン・ザ・スカイ/グリーン・ルーム/シンクロナイズド・モンスター/ギフテッド/花筐/勝手にふるえてろ/わたしは、ダニエル・ブレイク/午後8時の訪問者/ラビング 愛という名前のふたり/ザ・コンサルタント/雨の日は会えない、晴れた日は君を想う/ローグ・ワン/グレートウォール/キング・アーサー

過去の年度別ベスト10