イン・ザ・ネーム・オブ・何?『ダラス・バイヤーズクラブ』『あなたを抱きしめる日まで』『チョコレートドーナツ』

 今年上半期に観た作品、それも実話ベースの作品を多く鑑賞したような気がしたが、それらの作品の中にある共通点があることに気が付いた。それは「本来であれば人を守るべきものが、一部の人間には時に障壁となって立ち塞がる」というテーマである。


『ダラス・バイヤーズクラブ』

 HIVポジティブのロン(マシュー・マコノニー)は病院で余命30日と宣告されるが、アメリカ国内では未承認のエイズ治療薬をメキシコで入手し本国へ持ち帰る。30日を過ぎても薬のおかげで生き延びたロンは、その後もメキシコから治療薬を密輸し同じような症状の患者のために売りさばくが、これにアメリカ政府が「待った」をかける。この映画で障壁となるのは製薬会社であり、薬事法その他の法律である。


『あなたを抱きしめる日まで』

 かつて自分が身を置いた修道院でシングルマザーとして赤子を出産し、その後に子供を強制的に養子に出されてしまったフィロミナ(ジュディ・デンチ)は、もう50歳になろうとする息子を探そうとしていた。しかしそこに「(養子に出した息子の)行方を追わない、と誓約したはずだ」と、適切な対応を避ける修道院が立ちはだかる。彼女は調査協力を依頼したジャーナリストのマーティン(スティーヴ・クーガン)と共にアメリカに旅出つが、二人はそこで修道院の非人道的な裏の顔を知ることになる。この映画で障壁となるのは、人を救うべきはずの宗教である。


『チョコレートドーナツ』

 歌手を目指すドラァグクイーンのルディ(アラン・カミング)と弁護士のポール(ギャレット・ディラハント)はゲイのカップルで、母親のネグレクトにより路頭を彷徨っていたダウン症児マルコ(アイザック・レイヴァ)を、行きがかり上とはいえ面倒を見るようになる。やがて三人は家族のような関係となるが ゲイのカップルに子育てなど任せられないという偏見から、児童家庭局によってマルコと引き離されてしまう。この映画では行政と児童福祉法、その他の法律が障壁となり、ゲイカップルの前に立ち塞がる。



 ソダーバーグの「ガールフレンド・エクスペリンス」を観たときに思ったが、既に完結しているシステムに身を委ねるのは心地よいし簡単だし、何といっても余計なことを考えずに済むので楽チンである。だがしかし、それはシステムからはみ出したり零れ落ちてしまった事例を、無視したり見て見ぬ振りをすることであり、一種の思考停止である。
 神の下、法の下、何でも良いが、それを越えた所にいつだってトラブルは存在し、そのシステムの枠内で対処しようとすることは惰性以外の何物でもない。上記三作品を観て改めて、そのことを強く思った次第である。