ユビキタス極道「預言者」


6年の懲役で移送された刑務所で、アラブ系の青年:マリクは、コルシカ系の古参を筆頭とする囚人グループから入所早々に目を付けられ、無理難題を押し付けられる。助けを求めれば、その看守も賄賂を貰っていて、見て見ぬふりどころか「命令に従え」と暴行を受ける。冒頭から八方塞がりどころか十六方は塞がっていそうな袋小路で、青年は決死の覚悟でその通過儀礼を受け入れる。
そこを乗り越えると、所謂「住めば都」的な、塀の中での暮らしぶりが克明に描かれるが、そこでまず古参の「怠惰で偏見に満ちていて傲慢」という旧態依然の醜さと、「勤勉でセンスが良く、誰に対しても分け隔てない」という新世代の柔軟さが、対比として作品に表れる。

マリクは文盲を克服し、異なる言語を覚え、ビジネスを通じて多民族間でのコミュニケーション網を構築していく。「経済学」と章立てされたこのパートで流れるのは、Nasが実父と競演し「ブルーズとジャズとラップの狭間を埋めるぜ」と息巻く「Bridging the Gap」である。
刑務所という最底辺の世界で、さらにそこでの裏の家業にその身を置きながら、マリクは空の大きさや海の青さに感動することができる。収監される際に、自分の所有品を没収されると思い込み、靴の底に紙幣を隠した青年は、自らの手を汚して歳を重ねても、その時に隠したボロボロの紙幣の重さを、その意味を、捨てずに取っておくことができるのだ。
そんな「しなやかさ」が、次々に降りかかる苦難をすり抜けていく彼を肯定する。マリクが塀の中にいようと外にいようと、彼が有する分け隔てない人脈によって、トラブルを解決し、周囲の信頼を勝ち得てゆく。本作がデビュー作であるという、マリクを演じるタハール・ラヒムの「顔つき」が、物語の始まりと終わりではまったくといって良いほど別人の顔に変化していく過程も、本作の見所の一つである。
モラルに反しながらも、物語の持つ爽快感がそれを凌駕する。95年のフランスを切り取った「憎しみ」の先の世界がここにはある。必見。



Street's Disciple
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