I LOVE NYという免罪符「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」


9.11で父親を亡くした9歳の少年が、その喪失を受け止めるべく、父の遺品である「鍵」が一体何を意味するのかを探し求める物語。原作では9.11と「ドレスデン空爆」が並行で語られるらしいが、映画で「ドレスデン」は地名としてほんの少し登場する程度(原作未読)。
映画を観ながら、なんとなく思い出していたのは「ネバー・エンディング・ストーリー」である。あの映画の少年:バスチアンが逃避するのは「『はてしない物語』というファンタジーの世界」であって、「ものすごく〜」の少年:オスカーが逃避するのは「父が存在して自分のことを見てくれている(はずだった)世界」であったりする。この対比が非常に興味深かった。かつて多くの夢見がちな少年たちがそうしたように現実から逃避して空想の世界に浸るのではなく、オスカーは大好きだった「父の思い出/父が見ていた世界」に浸るのである。
作品のネックとなる「大好きだった父(トム・ハンクス)」の描かれ方が、こんな良いお父さんがいなくなってしまったら寂しくてしょうがないよなぁ、と素直に感情移入できる一方で、子が親に抱く愛情としては過剰でちょっとイビツにすら感じるというか、明らかに恋愛感情に近いソレだよなぁ、と思ってしまった。そうすると、当然「恋敵」は夫を失った妻、オスカーにとっての母親であり、彼が劇中に母親に向かって思わず言ってしまう台詞は「悪気のない本心」であることがよくわかる。

オスカーは祖母の家に住む、話さない「間借り人」の協力を得て、二人で「父の遺した鍵」がフィットする鍵穴を求めてニューヨーク行政5区を巡る旅に出る。この探索の過程で、オスカーは間借り人と行動を共にし、鍵と関係があるかもしれない人々と対面することで、父の喪失/9.11のトラウマから解放されていく。そのヒーリング・プロセスを描いた映画としては非常に優れていると言って良い。
しかしながら問題もある。「そこに父の亡骸などないのに、何故空っぽの棺桶を埋めるのか?」という点で納得がいかないオスカーの「何故、9.11のようなことが起きたのか?」という疑問に、大人は誰も答えてくれはしない。何もイスラム系の登場人物を配置せよとまでは言わないが、この点で非常に不満が残った。いくらなんでももう10年は経ったんだから、“寄り添ってハグ”の、その先の物語が提示できないもんだろうか?
とはいえ、ラスト近くに母親が我が子に対してとる行動が、とあるイギリス映画のオチと全く同じなのには結構泣かされてしまった。両方のネタバレになるので作品名は伏せるが、それもやはり恋愛映画で、男が女に、女が男に対して取る行動なのである。
そしてもう一点。父親が子に寄せる愛情と、夫が妻に寄せる愛情とは、まったく別物である、という点を割りとサラっとやってのけていて、この辺が都会派というか、なんてことないシーンだけど見せ方が凄く上手いなぁと関心してしまった。

←2002年オスカー時、ウディ・アレンによるNYトリビュート

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