「ペルシャ猫を誰も知らない」


「ぼくの夢はアイスランドに行くこと。アイスランドでシガー・ロスのライヴを見るんだ」
かつてペルシャと呼ばれていたイラン、その首都テヘランで、バンド活動する若者をセミドキュメンタリータッチで追った青春群像劇。
イスラム文化指導省の許可がなければ音楽を演奏も録音も禁止されている(つまり逮捕される)という過酷な状況下とは思えぬ気負いの無さというか、これがなんというか良い意味で非常に肩の力が抜けているオフビートな感じで、随所で笑いを誘う。しかしながらそうした規制に対する批判的視線はかなり辛辣に盛り込まれていて、その両方の匙加減に唸ってしまった。劇場公開を見逃していたことを大いに後悔。DVD化されたので、少しでも多くの人に観てもらいたいです。
音楽モノの映画で何が楽しいかと言えば、その一つの要素に「でたらめな人」がよく出てくるという点。もともと芸事の世界を扱った作品には「でたらめ」だったり「いい加減」だったり「テキトー」な人がよく登場するが、本作「ペルシャ猫〜」で言えば、無許可のゲリラライヴを仕切るナデルがそれ。口から生まれてきたような軽薄さ、それを裏打ちするような機動力の軽さ、そして幅広い人脈、それでいて面倒見も性根も良い人、という非常に魅力的なキャラクターをハメッド・ベーダードなるイランの俳優が好演している(違法DVD所持の廉で取調べを受けた警察署で、恩赦を得ようと嘘泣きするシーンが最高!)。
ナデル役のハメッドさん。中東のエリック・バナ的な感じ。
劇中に登場するバンド、ミュージシャンの面々はどれも非常に個性的でバラエティに富む感じ。インディーロック、ヒップホップ、メタル、ジャズ、フュージョン、フォークにソウルといった具合で、こうしたバラバラな音楽を「違法パスポート/ビザを獲得するための資金繰り→地下ライヴの興行を思い立ち実現のために奔走する」といったシンプルなストーリーラインに絡めていく様はまさに白眉。しかしながら、決して楽しいだけではないこの映画は、ほろ苦い幕切れとともにイランの厳しい現実に引き戻される。
実話に基づくというこの作品の、エンディングに際しての重さ。主演の男女2名は、本作の最終テイク撮影4時間後にはイランを出国、現在はロンドンで活動中。音楽同様、映画製作もイスラム文化指導省の許可なしには撮影が許されないので、監督のバフマン・ゴバディはゲリラで撮影中に2度拘束されるも、上記のナデルのような口車で何とか言い逃れた(笑)らしい。ゴバディ監督は本作の撮影後に母国イランを離れてイラクに移ったとのこと。
ロンドン五輪開催のCMに使われる(ことになってしまった)というクラッシュのあの曲は、歌詞を「テヘラン」に変え、今晩もイランの地下クラブで演奏されているに違いない。

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