ダディ・アイム・レディ「ハンナ」


プロジェクトマネージャの美倉マリ子は悩んでいた。上層部の許しを得て、作業を迅速化する「画凛歌」というプロジェクトを立ち上げたが、他のプロジェクトの遅延による工数削減の影響で、やむなく画凛歌プログラムは白紙に戻されてしまう。機密事項の関係上、作業に関わっていた派遣社員の栄陸ヘラ夫の契約更新を取りやめ、事実上解雇とする。
時は流れて16年後。マリ子は現在進行中のプロジェクトに、「hanna.exe」というファイルが紛れ込んでいる、という報告を受ける。それは、16年前の画凛歌プロジェクトに関わった者でないと知り得ない情報が書き込まれていた……
「プライドと偏見」「つぐない」「路上のソリスト」の監督、ジョー・ライトの新作。「アサシンとしてフィンランドの山奥で父親に育てられた少女が、母親への復讐を果たすために立ち上がる」というと、昨年の「キック・アス」のヒットガールのサブプロットを連想させるが、あの映画に圧倒的に欠如していた「殺人者として育てられた少女の内面」が丁寧に描かれていたので、個人的には非常に満足した。「元CIAの男」という設定からは、抜け忍モノのテイストも加わり飽きさせない。
←美倉マリ子
今回メインのヒールとなるマリッサ・ヴィークラーを演じるケイト・ブランシェットは、自分の「影武者」が瞬殺される様を呆然と見つめるカットから始まり、見所が盛りだくさん。対するCIAに切り捨てされた男:エリック・ヘラー演じるエリック・バナは、ベルリンバスターミナルの地下通路で長回しなどでアクションを披露する。

タイトルとなるハンナを演じるシアーシャ・ローナンは、普段の栗色(?)の髪をプラチナブロンドに染め上げ眉毛も色を抜き、その外見はまるで本当のアルビノの少女のようである。美しく人間離れしたその様は、ボウイの「地球に落ちてきた男」を連想させる(暗黒皇帝さんのご指摘)。16年間山奥で育てられ、音楽を聴いたことがなく「音楽」を夢想し続けたハンナが、逃亡先のモロッコで初めてフラメンコに触れるシーンはとても美しい。
本作のスコアを担当したケミカル・ブラザーズも、いわゆる「溜めて溜めて、見せ場でやっとビートが打ち鳴らされる」という、効果的なサウンドデザインを提供。作品に華を添えている。
タイトルが掲げられる時のキメ台詞がラストに絶妙に繋がるあたり、続編を作る気満々っぽいけど、できればこれ一本だけで伝説と化して欲しいなぁと思った。

ハンナ オリジナル・サウンドトラック
ザ・ケミカル・ブラザーズ
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