放浪記(でんぐり返りはナシ) 〜イントゥ・ザ・ワイルド〜
「イントゥ・ザ・ワイルド」を観ました(@109シネマズ)。
1992年、アラスカの大地にうち捨てられた廃バスの中で、一人の若者の遺体が発見される。彼の名はクリス・マッカンドレス。DC郊外の高級住宅街で育ち、父はNASAのエンジニアという裕福な家庭に育った彼が、何故文明を拒絶し、北の荒野で死に絶えたのか?事件当時、全米でもセンセーショナルに報じられた事件をジョン・クラカワーが小説にし、それを10年がかりでショーン・ペンが映画化したという意欲作。個人的には今年のベストに大きく食い込んでくるであろう大傑作でした。
まず、鑑賞前の懸念点として、「自分探しが止まらない」のような本(注:誤解されやすいのですが、著者速水は、そうした若者を否定も肯定もしていない)を読んでしまった33歳の自分が今、はたして「IDやクレジットカードや紙幣を燃やし、自らを“アレグザンダー・スーパートランプ(超放浪者!)”と名乗り、アラスカの荒野で野垂れ死んだ若者」に、どれほど共感できるのであろうか?という大きな不安材料がありました。しかし、結果的には二時間半を越える本作品にまったく飽きることなく、映画の後半ではボロボロと泣いている自分がいたのでした。
何故それほどまでに感動したのか?それはある若者の愚かしさと美しさが、ショーン・ペンという男の手により、この上なく真摯に描かれていたからでした。これは、通過儀礼に失敗した若者の物語です。彼は、何も死ぬためにアラスカを目差したわけではありません。これは、アラスカの荒野でたった一人、一冬を乗り切ることで何かを掴もうとして、そしてほんのちょっとしたミスで死に至った、愚かで美しいある若者の物語なのです。
主人公クリスが旅の道中で出会う人々が、どれもキャラが立っていて素晴らしいです。トウモロコシ農場を営む男、ヒッピーのカップル、ギターを抱いた少女、べガスを目差すというハンガリー人(?)のカップル、そして若い頃に妻を亡くした退役兵の老人。彼らとクリスの心の交流が、ペンが理想とするニューシネマっぽいスタイルで綴られていきます。
アトランタからアラスカまで、ほぼ全米縦断といった感じの撮影も素晴らしい。大自然というか、まだまだ人が一歩も踏み入れたことのない土地なんてゴロゴロあるだろ!と思わずに入られない驚愕の風景(野生動物も多種多様に出演)が目白押しです。これは是非、スクリーンの大画面で皆さんにも確認して頂きたいところ。
そうした全米の自然風景が主役と言えるような映画でもあるのですが、やはり何と言っても主人公クリスを演じるエミール・ハーシュの素晴らしさに尽きると思います。撮影当時22歳。放浪する役なので「随所でボロをまとい髭ボーボー」といった具合に小汚いのですが、それをも打ち負かす青年期特有のオーラを放っていて「ああ、一番綺麗な時期に撮って貰えて良かったね」という感じ(キルステンなら「ガールズ・ルール!100%女の子主義」とか、「リアリティ・バイツ」の頃のウィノナとか、「フェリスはある朝突然に」の時のマシュー・ブロデリックとか)です。ほとんど愛嬌だけで人から人へ、土地から土地へと渡り歩いてゆくクリスのその様は、自分の様に決して人付き合いが上手くない人間にとって、もうそれだけで尊敬の対象でもあります(いやマジで)。クライマックス、餓死寸前の状態を演じるのに18キロ減量(!)して別人になってしまってる画などは、結構凄まじいモノがあります。
自分は高校生の時にレンタルビデオで「インディアン・ランナー」を観て、そしてクリス・マッカンドレスが全米をさすらっていた歳と同じぐらいの歳で「クロッシング・ガード」を観て、あのエンディングにボロ泣きしながら「ショーン・ペンが監督した映画は今後欠かすことなく観よう」と心に決めたのですが、怪作「プレッジ」の後に、こんな大傑作を撮るまでになろうとは思ってもみませんでした。当然、本作を鑑賞後も「ショーン先輩にこれからも付いて行くッス!」と心に決めつつ、劇場を後にしたのでした。
- Into the Wild - Trailer
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