カベイラ! 「エリート・スクワッド」二部作

■『エリート・スクワッド』

リオ・デ・ジャネイロにローマ法王が来訪することになった。警察のエリート特殊部隊BOPEの隊長ナシメントは、法王が宿泊を希望した場所の近くにある、危険なスラム地帯にはびこる麻薬ディーラーを一掃せよとの命令を受ける。妻が妊娠し、過酷な部隊を引退しようとしていた彼だったが、この最後の仕事だけは、断ることができなかった。一方、正義心に燃える新人警官のネトとマチアスは、高い志を持って警官の任務を始めるが、腐敗し、堕落しきった警察の実態にショックを受ける。彼らはやがて、最も過酷で、最も死に近い任務をこなす超エリート部隊、BOPEへの入隊を希望するが…。
公式サイトSTORYより

信頼筋からの評価が軒並み高かったため、レンタルで鑑賞。これが劇場公開されずにソフトスルーされてしまうぐらい、マイナーな外国映画に対する風当たりが強いというか、配給会社の冒険が許されないぐらい現状はしょっぱいことになっているんだなぁと愕然としつつ、映画の内容はちょっとどうかしてるぐらいクオリティの高いモノだった(詳しくはcinemacさんのこちらの感想などを)
この一作目で唸ってしまったのは、隊長ナシメントが「こいつなら後継者として務まるかも…」選んだ新人警官マチアスが、オフの日には大学で社会学を学んでいて、とある左翼っぽいグループと交流するようになり、その左翼グループはNGOの事務所を借りる関係でギャングに所場代を払って安全な活動を保証され、その仲良くなった延長でクサを回して貰ってて、ボンボン学生がそのクサを大学内で捌く、という一連の流れ。つまり世の悪循環の構造をミニマルにやっていて、当然正義感が強いマチアスは悩み、板挟みに遭い、その関係が終盤のトラブルの元凶になる、という物凄くお腹の痛い作りなっていること。この一連の流れがとてつもなく饒舌な語り口と共に紹介され、これで本当に初監督作なのだろうか?と驚いてしまった。
個人的な印象として抱いたのは、これもやはり「グッドフェローズ」の影響下にある作品で、フリーズフレイムにナレーションが被さる、とか色々と思い当たる節はあったのだけど、でもまぁそんな手法は今時は誰でもやってるか、と思いつつも、二作目のオープニングを観て「あっ」と声を上げてしまった。


■『エリート・スクワッド ブラジル特殊部隊B.O.P.E.』

二作目は、一作目で隊を抜けたはずだった隊長ナシメントが、突然何者かに襲撃されるシーンで幕を開ける。マシンガンで滅多打ちにされ、あれよあれよという間に蜂の巣にされるナシメントの車。そこに彼のナレーションが被さり「どうしてこんなことになったのか?」が回想形式で語られる。
これはマーティン・スコセッシのフィルモグラフィー暴力サイドでも「グッドフェローズ」と双璧をなす「カジノ」のオープニングとまったく同じである(終盤にこの襲撃シーンに戻ってきて「実は…」という構成も同じ)。
一作目で描かれた愚連隊「BOPE」の活躍は、完全にやり過ぎであると同時に「クズ(ギャング)どもを一掃だ!」といった快感と共に描かれ、非常に何とも言えない興奮と余韻と共に幕を下ろす。でも、普通に考えれば、社会倫理的にこんな権力(警察組織より一階層上、ということになっている)の圧倒的な武力による横行は許されて良いはずがない。と思っていたのだが、二作目ではマスコミがそれをどう伝えたのか、政治がそれにどう関わっていた/いくのかが、克明に描かれていたのである。イタリア系マフィアの内情を明かしたのが「グッドフェローズ」であり、そうした組織が司法と「まぁまぁとりあえず一杯…」と持ちつ持たれつの関係を如何に築いていったのかという点をベガスの変遷と共に描いたのが「カジノ」であった。この「エリート・スクワッド2」も、内情モノの“その先”を覗いた作品となっていた。
簡単に説明すると二作目では「BOPEがギャングを一掃すると、その一帯のあがりを今度が汚職警官が支配するようになる」という、ブラックジョークのような現実が提示されていて、一作目でBOPEを抜けられたはずのナシメントは、死んだ目で(本当に「心此処に在らず」という暗い目をしている!)現場復帰を果たし、その腐ったシステムと孤軍奮闘するはめになる、というお話になっている。

今回はポリティカルサスペンスっぽい作風が強くなり、アクションも一作目に比べて控えめだが、その分また違った魅力で「この途方もない暴力の世界」を切り取って見せてくれる。問題提起としてはこれが精一杯だし、何よりも希望を捨てたくはないんだ、と監督が観客に向かって語りかけるようなエンディングは、感傷的と言えばそうかもしれないが、自分は大いに感動してしまった(劇中の「ブラジリアン柔術による親子の邂逅」なんてシーンも凄く良い)。
というわけで、まるで深町先生id:FUKAMACHIために作られたかのようなこの映画を深町先生が観なくて誰が観るんだ!と鑑賞しながら思ってしまったので、久々に名指しでTBさせて頂こうと思います。
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