飛浩隆「象られた力」
象られた力 kaleidscape (ハヤカワ文庫 JA)posted with amazlet at 12.07.28
不勉強なので、ツイッターのアカウントで作者ご本人のことを知り、そして著作を手に取ってみれば、その内容に幾度となく驚く、という読書体験でした。本作はSFマガジンに掲載された四つの中篇・短篇(85〜92年)に大幅な加筆修正を加えた作品となっています。以下にそれぞれの感想を。
■『呪界のほとり』
ローンウルフ的な主人公、その肩に乗る小竜、そして爺さん、というファンタジー。序盤こそほのぼのした雰囲気を醸し出すも、刺客が登場してからはハードなイメージに一変。「爺さん萌え」なキャラクターは表題作「象られた力」にも顕著だったり。
■『夜と泥の』
テラフォーミング版「シャイニング」とでも言うべき恐ろしくも美しい一品。オムニバスアニメ「迷宮物語」で大友克洋が監督した一篇「工事中止命令」を思い出したりも。
■『象られた力』
飛さんの、伊藤さんがご存命の頃の交流とか、そういう事情に物凄く疎かったので、全然知らずに「これって『虐殺器官』…?」と思いながら読み進めるじゃないですか。で、お二人ともはてなユーザーなので、お二人の日記ページの検索窓で検索するじゃないですか。ああ!やっぱり!となったわけですよ(バカですね)。
読みながら、あ、もう「象られた力」(旧版)は用済みになったかな、という感慨が脳裡をかすめました。かろうじて新版はなんとか首の皮一枚でつながっている模様。いくつかの素材は『ラギッド・ガール』ともニアミスしています(「器官」とか)。
上記は飛氏が「虐殺器官」に寄せた感想(→全文はこちら)です。
主人公:圓(ヒトミ)の“イコノグラファー”という職業に、大好きなジーターの「垂直世界の戦士」を連想したり。
■『デュオ』
双子のピアニストの連弾を録音するために、あるピアノ調律師が呼び寄せられる。というお話。しかし、この二人はただの双子ではなく、早々にそのフィジカルな状態が明かされてまず悶絶し、予想外の展開を見せる中盤に再度悶絶し、クライマックスのバトルに至っては「おおおおお!」という感じ。特にあの「第三の男」が登場した際の空気が変わる感じは、書いている作家の筆がほとばしるというか書き手の興奮がダイレクトに伝わってくるようで、読んでいる受け手も良い意味で消耗しました。クローネンバーグとか黒沢清が映画化したら良いのになぁ。
垂直世界の戦士 (ハヤカワ文庫SF)posted with amazlet at 12.07.29迷宮物語 [DVD]posted with amazlet at 12.08.02
というわけで、この調子で「グラン・ヴァカンス」も読み進めてみようと思います。