君が、嘘を、ついた「ザ・ホークス」


自作を出版してもらえない落ち目の作家が、大富豪ハワード・ヒューズに取材をしたことにして、でっち上げの自伝を出版してしまおう!と思い立つ。「どうせ自分のションベンを飲むような世捨て人だし、外に出てくるわけないから大丈夫!」かくして壮大なコンゲームの幕開けとなるのだが……という、“実話に基づく”お話。
嘘をつくことが恒常化しているような人って、それを言い続けることで自身も嘘を言っている感覚というのが消失していくのではないか、と、この映画を観て改めて思った。嘘をつき続けることで、焦りとか気まずさとか、様々なネガティヴな感覚が麻痺していき、そうして反応もしなくなった先では、もはやそれは嘘ではなくなる→本当になる。
こうした思考回路は「勝つと思えば絶対に勝つ!」などと、試合前に自らを鼓舞するアスリートの心境と似ていなくもない。かくしてフェイク・オートバイオグラフィーを手がけることになった作家:クリフォード・アーヴィング(リチャード・ギア)は、嘘と妄想が高じてヒューズのイメージトレーニングを始めちゃったりする。

執筆を進める中で、編集会議で嘘を見抜かれそうになり、アーヴィングがハッタリをかます、というありきたりなシーンが非常に面白い。これは、役者が演じる「ある人物」が、映画の中でもさらに芝居をして大一番を迎える、という入れ子構造になっていて、相当にスキルがある役者でないとただ鬱陶しいだけの芝居になると思うのだが、リチャード・ギアは見事に演じきっている。妻に浮気の真偽を追求され、見事な弁解で嘘を「真実」とする過程を視覚化していくシーンなど、物凄く可笑しいのと同時に関心してしまった。

映画を観ながら「このクリフォードという男のデタラメさはどこかに既視感を感じるなぁ」と考えていたら、タイムリーにも某焼肉チェーンの事件発覚後の逆ギレ記者会見に思い至った。少し前に公開していたマット・デイモンの「インフォーマント」にも近いテイストがあったりするので、あちらがお気に召した方も是非ご覧になったら良いと思います。

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追記:作品名が「ホークス」でハワード・ヒューズのことを題材にしている映画なので「え?ハワード・ホークスも出てくるの?」とか勝手に勘違いしていたら、このタイトルは「Hoax」であり「Hawks」ではない。意味は「[名] 1 人をかつぐこと;(冗談でする)いたずら,悪ふざけ,悪さ. 2 人をだますための物.」とか、そんな感じだそうです。