呪いじゃなくて贈り物 「ヒア アフター」


今回は「ヒア アフター」という映画が、いかに優れた脚本構造をしているかを少々(核心には触れないようにしますが、なるべく鑑賞後のご一読が望ましいかと)。
■主な登場人物(以下、wikipediaあらすじより抜粋)

  • フランスの女性ジャーナリストのマリー(セシル・ドゥ・フランス)。彼女は、津波にのまれた時に臨死体験を経験。その時に見た不思議な光景を忘れることができない。
  • イギリスの少年マーカスは愛する双子の兄を亡くしてしまった悲しみから立ち直れず、兄と再会することを望んでいる。
  • アメリカ人ジョージ(マット・デイモン)は、かつて霊能者として知られた人物だが、次第に自らの才能を嫌悪、その才能は用いずに生きている。「いったいどうしてこの自分にだけ死者の声が聞こえるのだ?」

この三人は「霊界とのコネクションを求める者」「霊界とのコネクションを断ちきりたい者」の二種類に分類される。
求める者は言うまでもなくマリーとマーカスで、断ち切りたい者はジョージ。
「霊界とのコネクションを求める者」組は、その問題を解決しようと奮闘する様が、非常に対照的な形で描かれる。マリーは地位も知恵も、そして「霊界とのコネクション」に辿り着くためのコネクションというものがどういった物なのかを理解している。
一方、マーカスはと言えば、母親が薬物依存から脱するためのプログラムに入ってしまったため里親に預けられ、そしてもちろん、お金などあるはずがない。マーカスがおぼつかないながらも真っ直ぐに道を求めようとする様は非常に感動的で、観客が彼に一喜一憂している時点ですでに、クリント翁の掌でゴロンゴロンと転がされちゃっているのである(しかもそれはクライマックスの霊視のシーンまで気がつかない!)。
そして、本作の要である「コネクションを断ちきりたい者」ジョージのエピソード。かつてはサイキックとして活躍したがそれに嫌気がさし、現在は肉体労働者として生活を送る彼の様子は、先の二名と並行する形で綴られるが、これがまた実に手際よく語られる。100人観たら100人が「そんなことばっかりあったら、リセットのために旅にも出たくもなるよね……」と思わずにはいられない簡潔さで、観客を取り込んでゆく。
かくして物語は、全く繋がりが無かった三人が一堂に会するクライマックスの舞台に、霧の都:ロンドンを用意する。
このクライマックス、ここまでの流れがしっかりしているので、あとの結末は「そうなって欲しい!」という観客の要望通りに展開すれば、「ディケンズがワイルドカード過ぎる」など、細かい粗など結構どうでも良くなってしまう。ちょうど「トイ・ストーリー3」で、絶体絶命のクライマックス、おもちゃ達自ら(?)もあきらめかけたその時に、物語は奇跡的なカーブを描いて文字通り回収(!)されるのと同じである。
「グラン・トリノ」で引退宣言をした翁であったが、「ヒア アフター」が幕引きなら、こんなに綺麗な監督人生もないであろうと思える、しかしながらよくよく考えてみると非常にいびつで、そして得体の知れない無責任な確信に満ちた会心作。あなたも是非、大津波やテロによる大事故、そしてヌボーっとした大マット・デイモン*1を、大スクリーンで体験してみて下さい。




*1:ロンドンに着いてからのオノボリさん加減が凄い