セックスと嘘と鍼灸針「母なる証明」

母なる証明を観ました(@チネチッタ)。

もう何年も殺人事件が起きていないような韓国の片田舎の町。一人の少女が殺される。容疑者として逮捕されたのは、彼女をその晩に見かけたという、一人の青年だった。青年の無実を信じて疑わない彼の母は、真犯人探しに奔走するが・・・というお話。
長編デビュー作『ほえる犬は噛まない』に始まり『殺人の追憶』『グエムル−漢江の怪物−』そして短編オムニバス「TOKYO!」にも参加するなど、精力的かつハイクオリティーな作品を発し続ける韓国の新鋭が選んだ今回の題材は、出世作となった「殺人の追憶」のいわば変奏とでもいうべきテイストの作品。しかしながら、クライマックスにかけて、彼が本当に描きたかったそのテーマが浮き彫りになり、エンディングに至っては「またもや前人未到の地へ降り立った・・・!」とでも評したくなるような本当に物凄い終わり方をしていて、やっぱりポン・ジュノ侮れない!と改めて思ってしまいました。
紹介されているあらすじでは「純粋無垢な青年をウォン・ビンが演じ・・・」的な、非常に奥歯にモノの挟まったような表現になっていますが、今回彼が演じているのは(そういった確かな言及は作品中ありませんが)紛れもなく「知的障害者」です。殺人事件に関与している疑いがある、ともなれば、いわゆる健常者でさえ不寛容な対応をされるであろう現代の世の中で、ハンディキャップを抱えた人たちが犯罪の容疑者として逮捕されてしまった時、その家族は一体どうすれば良いのか?ポン・ジュノは観客に問いかけます。
しかしながら、この上辺のテーマにもちょっとした仕掛けがあって、映画の後半は、そこを巧妙に駆使してのオチ(ここは「まぁそうなんじゃないかと思った」と予想できる)→そこから派生する大オチ(これは全く予想不可能。というか、普通思いつかない*1→そしてズドーンと重い重い余韻を残すエンドロールへ雪崩れ込む・・・という怒涛の展開が繰り広げられていて、観終わると「殺人の追憶」の変奏どころではない!と鼻息も荒くなっている自分がいるのでした。
「母親と息子の、近親相姦的関係を匂わす描写」「実は殺された少女が町でとんでもないことをしていた」などなど、韓国内でも色々とタブー視されそうなテーマをあえて盛り込んでいく、ポン・ジュノという作家の腹の座り具合に改めて感心するとともに、さらにはそれ以前に「母なる証明」が一級のサスペンス/ミステリ作品として成立しているという事実も驚くべき所です。
ポン・ジュノの映画では初のシネスコ作品となる本作。彼のファンはもちろん、彼の作品を一本でも面白いと思った人、または彼の作品をまだ観たことがないという人も、映画が好きな人間なら義務のように観に行くべき作品だと思います。必見!



*1:映画を観た人だけどうぞ、ネタバレ解説 http://d.hatena.ne.jp/Dirk_Diggler/19811207/#p1