鋼鉄のラヴレター「アンヴィル!〜夢を諦めきれない男たち〜」

「アンヴィル!〜夢を諦めきれない男たち〜」を観ました(@TOHOシネマズ横浜)

80年代前半にデビューし、将来も有望視されていた“ANVIL”というメタルバンドは、何故時代から取り残され、給食配達の傍らにもかかわらず、今なおバンド活動を続けているのか?というドキュメンタリー映画。これはもう、ドキュメンタリーというか、二人の男の四半世紀(以上)に渡る、愛と友情の物語なのでした。なので、メタルとか全然知らない人でも楽しめる作品だと思います。
84年に日本で行われた、HR/HM系のバンドが全国を巡る「SUPER ROCK '84 IN JAPAN」というパッケージツアー。他に出演したバンドは、皆それなりに売れていったのに、何故アンヴィルだけ売れなかったのか?
「偉大なバンドだ。昔から好きだった。メンバーは皆、いい奴で才能に溢れていた」 ―レミー(モーターヘッド)
「彼らがビッグにならないなんて、人生は厳しいよ。彼らは得るべきリスペクトを得られなかった。多くの人が彼らから影響を受けたけど、皆彼らから盗み、見捨てたんだ」 ―スラッシュ(元GN'R/ヴェルヴェット・リボルバー)
幾人かの現役でバリバリ活躍しているミュージシャンが冒頭で明かすように、彼らはズバリ「いい奴すぎた」のではないかと思います。だがしかし、当然ながらメンバーに面と向かって「貴方たちは“いい奴”過ぎたし、ギラギラした向上心にも無頓着だったから、成功しなかったんですよね?」なんて聞けたものでもないし、聞いたところで、それはお通夜のような雰囲気になるだけなので、監督であるサーシャ・ガバシは、彼ら(バンドの創設者であるVo/Gtのリップス(↑画像左)、Drのロブ(右))に寄り添い、カメラのレンズを通してその真意を切り取ろうとします。
以下は「何とか現状打破せねば・・・!」というところに、ちょうどヨーロッパツアーの話が舞い込むのですが、これがとんだ珍道中というか、ちょっとした実写版「スパイナル・タップ*1」となっております。幾つか挙げると・・・

  • 割と大きめのフェスの楽屋でリップスが「あの・・・憶えてます?ディルドでギターを弾いてた僕です」とマイケル・シェンカーに話しかけるも無視される。
  • その後、バックヤードに通りがかった人影を見て、監督との会話を遮り「・・・あれ今の・・・トミー・アルドリッチだ!ヘイ、トミー!」と目を輝かせて彼の方に行ってしまう。
  • 東欧(?)のとあるクラブで演奏するも、道に迷ってしまい、開演時間に間に合わない。それでも残っていた客の前で演奏したら「遅れたからギャラはスープ(その地の名物料理)でいいでしょ?」「ふざんけんな!ギャラ払え!」と喧嘩。
  • と、さっきまでノリノリだった客が、争いの一部始終見て、その後に名刺を差し出す。「弁護士の○○です。あなたがたは最低でも1000人の客の前で演奏するべきだ。バンドを過小評価してはいけない」(仕込みかと思うぐらいのナイス展開!)

などなど、こんな感じで再起をかけた欧州ツアーもトホホ感たっぷりに終了します。
再度「何とか現状打破せねば・・・!」と、リップスとロブの二人は、バンドが昇り調子だった時に一緒に仕事をしたプロデューサーに連絡を取り、新たなアルバムのレコーディングを試みます。なんとかアルバム制作の費用を捻出し、レコーディングに漕ぎ着けたものの、10代でバンドを結成して以来の親友であるリップスとロブの関係に亀裂が生じます。
レコーディング中、二人は、ある出来事をきっかけに四文字言葉を交えて口汚く罵り合います。しかし、それもこれも、お互いがお互いのことを解りすぎているため。この衝突の以前にも、彼らが何度かトロントの街角を二人並んで歩くシーンが象徴的にインサートされます。その仲睦まじい様は、何とも言えず胸がしめつけらるような感じがします。このドキュメンタリーは、リップスとロブという二人の人間の、愛憎入り混じる30年を追ったドキュメンタリーでもあるのです。
映画は、ラウドパーク06に出演するためにやってきた日本でクライマックスを迎えます。彼らは、実に22年ぶりに日本を訪れるのですが、その時の表情、キラキラと少年のように顔を輝かせて渋谷の街並みを見あげて歩くさまは、同じくドキュメンタリー映画の「テルミン」で、冷戦終結後にかつて第二の祖国であったニューヨークを再び訪れたテルミン博士を彷彿とさせます。
ソニック・ユースの伝記本だったかニルヴァーナの伝記本だったか忘れましたが、サーストン・ムーアが「ニルヴァーナの『NEVERMIND』は何故あれほど売れたのか?」というインタビュアーの問いに対して、確かこんな風に語っていました。
「良い時期(タイミング)に、良い場所(ポジション)で、良い作品(レコード)を作ったからじゃないかな」
アンヴィルには恐らく、これらの要素の何かが欠けていた。そして、一度そのチャンスを逃すと、次の機会にはもっと成功のきっかけは厳しくなり、そして稀薄になってしまう。
これから好転するか、より悪くなるか解らない状況下においても、「バンド仲間だから」という簡潔極まりない理由だけで決してお互いを裏切らない二人の男の友情を、かつての友人であった監督のガバシ*2が真摯にカメラに収めている、という図式は、ある程度年を重ねた(酸いも甘いもかみ締めた)人間であれば感涙は必至なわけで、心動かされずにはおれません。
「アンヴィル!〜夢を諦めきれない男たち〜」は、自分の人生に節目が訪れた時があれば、何度か見返したくなるドキュメンタリーと言えるでしょう。


「スパイナル・タップ」予告編

そのスパイナル・タップの曲をカバーするサウンドガーデン(もう一曲はチーチ&チョンのカバー)



おまけ:ビリー・コーガンのメタル時代↓




*1:84年に公開された傑作モキュメンタリーhttp://www.allcinema.net/prog/show_c.php?num_c=12094

*2:16歳だったガバシ少年は、アンヴィルの熱烈なファンというだけで、ローディーとして彼らのツアーに同行した