純・邦画「空気人形」

「空気人形」を観ました(@チネチッタ)

ある男(板尾創路)の所有するラヴドールが突然、意志を持ち始めるという、というお話。
冒頭、板尾演じる男はコンビニでシャンプーを購入します。これが実はラヴドールに使用するシャンプーだと解った時、私はその健気さに涙しました。男が注ぐ愛情は、意志を持ち始めたラヴドール(ペ・ドゥナ)には決して届きません。何故なら彼女は男のことを好きではないし、そして他に好きな男(ARATA)に出会ってしまったから。

男の子とちがう 女の子って 好きと嫌いだけで 普通がないの
でも 好きになったら いくつかの 魔法を見せるわ 本当よ
え、この映画の主題歌?というぐらい、おそろしく「空気人形」のテーマと共通しているような気がします。
意志を持ち、ARATA演じるレンタルビデオ屋の店員に一目惚れ(そこに理由は語られない、文字通りの一目惚れ)してしまってから、空気人形=ペ・ドゥナが取る行動といえば、その店で働き始めるのは彼と一緒に居たいが為だし、夜に板尾に対して嫌々お役目を果たすのも(行為後に一人シャワーを浴びる象徴的なシーンあり)昼間にARATAに会うためだし、「(板尾のことを)ばらすぞ」とレンタルビデオ屋の店長に脅され、セックスを受け容れてしまうのも(心ここに在らずといった感じで「仁義なき戦い」のテーマを口ずさむ)、ARATAに黙ってもらいたいが為。恐ろしく一途なまでの健気さです(私はあまり通じていないのでよくわかりませんが、こういうプロットはピンク映画では鉄板なのではないでしょうか?)。
そしてようやく訪れる、ARATAとのセックスシーンは、直接描写を「空気を入れたり出したり」に見立てた代替行為。“代替”というキーワードは、「私は誰かの代わり、性的欲求の代替品」という台詞として、繰り返し空気人形の口から発せられます。
「誰かの代替」という感覚、そして映画が結末で辿り着く「やっぱり幸せにはなれないんだわ…」というヂ・アンニュイな感じもまさに少女漫画的で、その幕引きは「美から一番遠い所に身を置く人間から美を見出される」という非常に皮肉めいた形を取ります。
「空気人形」は、是枝裕和という90年代半ばにデビューした監督が、「ピンク映画」や「少女漫画」といった恐ろしく日本的なモチーフを、台湾の撮影監督(リー・ピンビン)と韓国の主演女優という、共に無くては成らない(代替の利かない)布陣で作り上げた、(良い意味も悪い意味も含め)純邦画的なエッセンスがギッシリ詰まった作品と言えるでしょう。
追記:人形という設定でたどたどしい日本語を喋るペ・ドゥナは、この作品の勝因の一つだと思いますが、これは「青年の体に老人が乗り移ってしまう」という点で台詞のたどたどしさを有効にしてしまった「金髪の草原」メソッドだな、と思いました。

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