夜の略奪者たち「ビーツ、ライムズ・アンド・ライフ」


言わずと知れたニュースクールの代表選手:ア・トライヴ・コールド・クエスト(ATCQ)の面々に、俳優のマイケル・ラパポートが監督として迫ったドキュメンタリー作品。
ラパポートはグループ結成〜一躍時代の寵児に〜不仲説などが取り沙汰され解散〜そして再結成ツアーまで…という具合に、ATCQが歩んできた(それこそ、1stのタイトルにあるような)“ライムの小径”を、メンバーそれぞれの想いと共に振り返り、丁寧に掬い上げてみせる。初監督作として上出来の部類に仕上がっているのは、一重に「ずっと彼らのファンだった。グループがどうして解散するに至ったかを知りたかった」という、ラパポート当人の真摯な「トライヴ愛」がなせる業だったのではないかと思う。
以下に見所というか、個人的に面白かったエピソードを挙げておきます。

  • 結成からネイティヴタン始動まで。辛うじて生き残っている人、もう半分引退したに等しい人、そして別の道を歩んでいる人。こういう現在が先に映し出されているから、蜜月に大挙してステージに上がっている映像を見ると、もうそれだけが涙腺が緩んでしまう。その時は永遠に続くかのように感じられた楽しい時って、振り返ってみると一瞬なんだなぁ、と。
  • 「Bonita Applebum」の革新性と、「The Low End Theory」が発売された時の彼らの「無敵感」を熱っぽく語るファレル・ウィリアムス。
  • どんな時でも学者然とした語りで安定感のあるクエストラヴ先生はドヤ顔でこんなことを言う。「1993年11月9日に、クラシックなヒップホップにとって最重要とも言える2枚のアルバムが発売された。それがATCQの3rd『Midnight Marauders』と、ウータン・クランのデビューアルバム」(発売が同じ日だったのか!)
  • ビースティーズの三人もインタビューに答えるが、大写しになったMCAに「ハッ……!」となってしまい、ちょっと涙ぐんで何を喋っていたかあんまり覚えてない。
  • その『Midnight Marauders』と言えば有名な「ヒップホップ友達の輪」的な顔写真だけど、当時「呼ばれた?」「オレ呼ばれてない!」みたいな感じでヒップホップ界隈は騒然となった、という話が可笑しい。「呼ばれなかったので、これから頑張って呼ばれるようになってやろうと思った」と振り返るコモンがいじらしい。ちなみに一覧はこのページに。
  • 『The Love Movement』の時はメンバー間の緊張がピークにあったらしく、「皮肉だよな。メンバー間に愛なんかこれっぽっちも残ってないのにこんなタイトルなんて。いっそ『The Last Movement』とかの方がまだ良かったよ」とファイフ。そして遂に解散を発表する。
  • このドキュメントで印象的なのは、写っている現在の4人。簡単に言うと、今だ活動を続けるQティップ/アリの現役組と、「ヒップホップは表現方法の一つなので、別に無くても生きていける」と別の道を歩んだファイフ/ジャロビのセミリタイア組にきっちり別れている、という点。仲が良かった結成時でも、つるでいたのは大抵この組み合わせだったみたい。ファイフはバスケ好きが高じてNCAA?のスカウトみたいなことをやっており、ジャロビは飲食店を経営している。ショウビズ界に身を置く緊張感からか、現役組の精悍な様と、セミリタイア組のダルっとした体型が、残酷にも対照的に何某かを物語ってしまっている。
  • もちろんファイフは糖尿病っていうハンデがあり、全身全霊を芸能活動に傾けられないのはわかるけど、ファイフ自身がリユニオン・ツアー(ロック・ザ・ベルズ2008)を申し出ておいて、ツアー中の体調不良を理由にQティップに当たる、なんていう様は、両者の言い分がわかるだけに観ていて非常に痛々しく思えた。ツアーメイトであるデラの面々にも「(二人の諍いを)もう見てられないよ・・・」とボヤかれるほど。芸事に身を置く人間が歳を取る、ってこういうことなんだなぁ。
  • まぁ色々あって、最終的には仲直りするんだけど、その先で待っているのがなんと日本ツアー(サマソニ2010)。これってまるっきり「スパイナル・タップ」と同じじゃんか!(「アンヴィル!」もそうか)
  • 来日したQティップとアリが訪れるのはディスクユニオン渋谷店。地下のジャズやファンク/ソウルのフロア。そこでレコードを視聴するQティップ。自分も2010年以降にあそこで視聴したことあるから、同じヘッドフォンを使ったことに……!
  • エンドロールでは「ATCQはあと1枚、レコードディールが残っている」と結ぶ。楽しみにしています。

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