フロム・LA・トゥ・シブヤシモキタ「イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ」


話題の人、バンクシーのドキュメンタリー映画。というよりは、彼の取り巻きで突如として名を知られるようになった「ミスター・ブレインウォッシュ(以下MBW)」についてのドキュメントといった方が正しい。映画が終わりに近づくに連れわかってくるのだが、この「イグジット〜」という作品は、MBWという人物にまつわる面白エピソードを紹介しつつも「みんな思いっきり勘違いしてるみたいだからこの辺でちゃんと言っておかないと」という、バンクシーからの声明文なのかもしれない。
で、これがどういう話なのかというと、実際に起こった出来事の記録映像について話すのに「ネタバレ」という言葉は当てはまらない気がするけど、このドキュメントを「まっさらな気分で楽しみたい」という方は、以下に貼り付けたMBW作品より下の感想はお読みにならない方が無難だと思われます。


端的に言ってしまえば「如何にしてMBWは初個展をうった一晩にして時代の寵児となりえたのか?」という経緯を、もっと言えばMBW=ティエリー・グリエッタというアートに関しては素人同然に等しい男が、何故LAウィークリーのカバーを飾って業界の話題を独占するに至ったのか?という、いくら呆れても呆れきれない馬鹿馬鹿しい話の顛末が、「イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ」で描かれている。
詳細は各々劇場で確認していただくとして、私が強く思ったことはMBW作品の「絶妙なペラさ」である。
↑に貼り付けた画像をもう一度ご覧頂きたい。
ジャック・ニコルソン(「シャイニング」)、ヒッチコック(わかり易い監督のイメージ)、シド・ヴィシャス(わかり易いパンクのイメージ)、ウォーホルのキャンベルスープ缶(わかり易いポップアートのイメージ)、上記画像にはないが、AC/DCやビートルズを扱った作品などもある。私は、これらの作品のモチーフになっている映画スターやミュージシャンに、ある共通項があることに気付いた。

これは雑貨屋のポストカードじゃんか!

90年代半ば〜2000年代前半ぐらいまで、所謂「若者の街」とされていた渋谷や下北沢には、こうした海外(主にUS/UK)の雑貨を扱う店が多数あったように記憶している。そして、今やそのほとんどが消えてしまった。一時期には、HMVやタワレコには、輸入物の洋画ポスターやポストカード、缶バッジなどを扱うコーナーが結構なスペースを占領していたものだった(もはや渋谷HMVも存在しない)。
MBW作品のモチーフには、これら雑貨店ポストカードの常連というべき「何を今更」感が溢れている(バンクシーは当初、このドキュメントに「クソのような作品をバカに売りつける方法」というタイトルをつける予定だったそうだ)。
こんなモノにアート界隈はまんまと騙されたのだ。バンクシーが「友達だから」と寄せた「MBWは社会現象だ」という趣旨の推薦文によって。
この程度の、主張もポリシーも何もない、スタイルだけを模倣した作品群なら、クラブやライヴハウスに行けば幾らでも「フライヤー」という形で手に入る。
そもそもMBWには「パレスチナの分離壁にグラフィティを残す」というアクションを思いつきもしないだろうし、威嚇射撃で脅されながらもスプレー缶を振り続けるガッツもないだろう。無論、作家が発表する作品に主張やポリシーがゼロだって構わないと思う。何が問題なのかといえば、それをさも何某かの意味が込められた高尚な作品であると言うように、人々が評価したことなのだ。

これは要するに、フェルメールのフェルメールっぽさ、というコードがあって、それは時代ごとに異なるのではないか、ということだ。我々の審美眼も我々の時代から逃れることは当然不可能だ。

伊藤さんが生きていたら、この「イグジット・スルー・ギフトショップ」を観てなんて言っただろう?



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