ウクライナ人をプロデュース。「ワンダーラスト」

「ワンダーラスト」を観ました(@チネチッタ)。

マドンナ初監督作。自伝的要素の色濃い青春映画と聞いて「うわーなんか今更お腹一杯な感じだなー」と思っていたのですが、周囲から割りと良い評判を聞いていたので「まぁ近場でやってるし…」と半信半疑で鑑賞。そしたらこれが予想していた以上に面白かったです。
簡単に言ってしまえば、ウクライナ移民でミュージシャン志望の男:AKのモノローグを主体に、彼のルームメイトである二人の女性、その家族や友人、同僚や恋人たちを俯瞰で眺めつつ、多種多様な視点で切取った群像劇。映画としてはこれといって目新しい感覚はなく、カメラ目線で主人公が観客に向かって語りかけるなど、どちらかと言えば最早使い古された手法で撮られた作品ですが、主人公を演じるユージン・ハッツの魅力だったり、マドンナ自身のパーソナリティを、AKと二人の女性という三人に振り分けて客観視させたりだとか、シンプルながらも興味深い作りになっていて、これはちょっと驚きました。

良くも悪くも、この映画の大きな支柱となっている、主人公AKを演じるユージン・ハッツ。少年時代、チェルノブイリ原発事故によって祖国ウクライナを離れ、ヨーロッパ各地を転々とした末に、ハッツは移住先のアメリカでメンバーの多くがジプシーで構成される「ゴーゴル・ボルデロ」というパンクバンドを結成します(歌声はジョー・ストラマーっぽい)。元々彼にベタ惚れだったマドンナが、彼をストーカーのように追い掛け回して、本作の脚本も彼を主役に据えてあて書きしたそうです。なので、彼の魅力にノレなかった人は拷問のような90分になるでしょうし、彼に魅力に参ってしまった人は90分が45分ぐらいに感じる至福の映像体験となるでしょう。
ミュージシャン、それもスーパースターが自伝的映画を撮る、などと言うと「エゴ丸出しの自分賛歌映画!」みたいな作品をどうしても想像してしまいがちですが、とりわけ客観視という点で言えば、マドンナという人が自身をこんなにも引きで見ていた、という事実は意外な収穫だったし、更に言えば、彼女が年代・人種・性別(と性趣向)などに決して偏見を持たずに、人を人としてよく観察していて、そして各人が持つ魅力というモノをズバリ見抜いている人なんだなぁ、ということも良く解る作品でした。


↑これがそのハッツのバンド、ゴーゴル・ボルデロ。映画のラストで演奏される曲です。

↑今回の映画制作のきっかけとなった、マドンナが監督したH&MのCM。アジア系の少女がマドンナ先生の手によりゴージャスに大変身!
あとマドンナは、かつて輝いていた頃に共演し、一時期ドボドボになり、そして最近、誰もが驚くような完全復活を遂げた“あの子”のことが好き過ぎる!と思いました。