平成青春残酷物語 〜童貞。をプロデュース〜

童貞。をプロデュース 1&2」を観ました(@池袋シネマロサ)

簡単に言ってしまえば「童貞の男の子を(文字通り)一皮剥けさせよう!」という趣旨のドキュメンタリー。だが実際には(それが意図したことなのか偶然なのかは判別しかねますが)両作品ともちょっとづつ“ズレ”が生じていくドキュメントでした。
まず「1」。童貞1号の加賀君は、風俗に抵抗があるという。「汚いイメージがある」という加賀君に対して、「なんだお前、AV作ってる俺を馬鹿にしてんのか」とすかさず突っ込みを入れるのが、本作品の監督である松江哲明。加賀君をAV撮影の現場に連れて行き、歪んだ女性観を強制させよう!というのが「1」のテーマで、監督:松江哲明と、童貞1号:加賀君の揺るぐ事のない力関係が、この「1」の肝となっています。AVの撮影現場に怖気づく加賀君に「お前これからそうやってずーっと逃げるよ。まさみさん(加賀君の意中の人)とのセックスでもお前は逃げ出す」と松江監督が吹っかるシーンが「1」のハイライト。
「1」で顕著である松江監督の悪魔的な導き(褒めてる)では太刀打ちできないほど、強力な童貞マグネティックフィールドの中心に鎮座ましますのが「2」に登場する童貞2号:梅澤君。しかし彼は厳密言うと“素人童貞”。過去に「とんでもない場所」にデリヘル嬢を呼びつけた経験のある、ちょっと素敵なモラリティに生きる人。80年代のアイドル、島田奈美を崇拝していて、彼女に捧げる自主映画を制作したことがある。その島田奈美(現:島田奈央子)に自分の作った映画を見せることで、神格視する女性への踏ん切りをつけさせよう!というのが「2」のテーマになっています。
梅澤君は埼玉の片田舎に実家暮らしで、「古雑誌からグラビアを集めたいがためにゴミ集積場で働いている」という、のっけからとんでもないカルマを放つ彼の生活が映し出されると、もう何とも言えない気分になりました(上記画像は梅澤君の部屋)。そして印象的だったのが梅澤君の外面(そとづら)と内面(うちづら)の使い分け。松江監督や友人たちと接する時の低姿勢とは打って変わって、実家の居間に設置したカメラからは両親を「お前」呼ばわりする様子が窺え、同じ屋根の下に暮らす弟夫婦とは一切の会話がありません。
梅澤君は加賀君と違い、某所にデリヘルを呼ぶ程度には性に対する抵抗がありません。ところが、意中のまさみさん(仮名)と電話で無駄話ができる程度には女子に対する免疫のある加賀君に対して、梅澤君は女の子とのデートでは緊張のあまり身体が過剰な反応(注:勃起にあらず)をしてしまいます。
つまり、異性に対するコミュニケーション能力が欠如しているのは明らかに梅澤君なのに、エンディングにあのようなサプライズゲストを用意してしまう松江哲明という男。上映前のトークショーで「童貞は捨てさせるモノではなく育むモノ」と、ご本人が仰っていましたが、私にはこの真意がとてつもなくドス黒く感じ、なんて悪い人なんだろう!もっと続けてくれ!と思ったのでした。
ちなみに私が両作品を通じて最も印象に残った点は、脱童貞をしてロックスターのようなボサボサの髪型で「2」の冒頭に登場する加賀君の変貌ぶりであり(部屋には付き合ってもいない女の子が遊びにきている!)、それはデビュー当時はオボコイ印象の拭えなかった村治佳織が、フランスへ留学した後に帰国したら印象がガラっと変わっていて、メチャクチャ“大人の女”といった雰囲気を漂わせていた時のことを思い出しました。

よりによってダニエル・ジョンストンのTシャツを着ているのが梅澤君。部屋にマイルス「ビッチェズブリュー」のアナログを飾っている様なサブカルエリートです。