移民の歌「闇の列車、光の旅」


少女は新たな家族との生活を始めようとホンジュラスからアメリカへ北上するために。少年はギャングの一員として無賃乗車で北上しようとする人々から金品を強奪するために。貨物列車の屋根の上で、二人は出会ってしまう。そんな「あらかじめ失われた」ボーイ・ミーツ・ガールの物語。
凡庸と言っても差し支えないほど既視感に溢れた話ながら、時折「映画的」としか例えようがない瞬間が何度か切り取られる作品。飽きもせず年に何本も映画を観ていても、こういう作品にはそうは簡単にお目にかかれない、シンプルながら稀有な力強さを持った作品でした。まさに圧倒的。少しでも興味をもたれた方は、私に騙されたと思って、まずは劇場に足を運んで頂きたいです。

メキシコ人が自分たちより更に南に住む中南米人を差別する構造や、メキシカンギャングのホモソーシャリズムと少年の少女に対する優しさとを対比させたり、画面に映っている物、展開していく事象、すべてにちゃんと意味があり(逆に言えば「なんとなくいいよねと思って撮った」というようなカットが存在しない)、かつそれを簡潔に表現している。
ニューヨーク大で映画を学び、日系三世の父親とスウェーデン系アメリカ人の母親をルーツに持つ、監督のキャリー・ジョージ・フクナガが訴えたかったこと。それは簡単に言ってしまえば「例えば街ですれちがうチカーノ系の人々、彼らにはアメリカに辿り着くまでにこれだけのバックストーリーがあったんですよ」という、合衆国民に向けたメッセージでしょう(原題「Sin Nombre」はスペイン語で「名もなき人びと」の意味)。その意図がまさに明確になるのが終幕間近。“かの地”に辿りつきテクテクと歩く彼女の姿を俯瞰で捉えるカットの文字通りの神々しさを体感しながら、「これは凄い新人監督が現れた」と打ち震えたものでした。

主役の少年少女二人(↑この二人の、観客が何の疑問も持たずにピュアネスを委ねられる感じが素晴らしい)をはじめ、出てくる役者がみんなイイ顔をしていました。2010年の下半期のスタートに忘れ難い映画に出会えた気がします。多分、終了前にもう一度ぐらい劇場で観ると思います。必見。