メタリカのグレイトフル・デッド化「デス・マグネティック」

Death Magnetic (Dig)

Death Magnetic (Dig)

その昔、まだ自分が高校生とかでBURRN!を定期購読していた頃のこと。確か「ブラックアルバム」をリリースした後のワールドツアーで来日した時のインタビューだったように思います。その頃といえば私はどっぷりとメタル漬けの日々で、メタリカに関する記事などはむさぼるように読んでいたのですが、インタビューの中で(ラーズかジェイムズかは忘れましたが)こんなことを言っていました。
「メタリカは将来、グレイトフル・デッドのようになるんだよ。アルバムをリリースしなくても長いツアーに出て、そうするとデッドヘッズならぬメタリカヘッズたちが追いかけてきてくれるんだ。なんというか、巨大な家族のような感じかねぇ」
メタリカがグレイトフル・デッドのような退屈なバンド(と当時は思っていた)になる、というのが何とも想像が付きませんでしたが、先日発売されたニューアルバム「デス・マグネティック」を一通り聴いて、それが氷解したように思えました。
本作では、かつての彼らのトレードマークであった、ザクザクとしたクランチリフを刻む、往年のスラッシュメタルスタイルに戻ってきています。ブラックアルバムの成功以後、よりポップな方向に展開しつつあった路線から一変。再び「マスター・オブ・パペッツ」「アンド・ジャスティス・フォー・オール」のような、アグレッシヴかつプログレッシヴなサウンドへの転向は、彼らが「ある技法」を手中に収めた、という証拠である様にも思えます。
その技法とは、かつての自分たちのアルバムから、印象的なリフやフレーズを抜き出して再構築すること。そしてそれを如何にして「ただの焼き直しじゃん」と飽きられないような、微量の今日性を盛り込むか、ということ。今回、初のタッグとなる、システム・オブ・ア・ダウンなどを手掛けてきたリック・ルービンをプロデューサーとして起用したことも、その辺を意識してのことだと思います(ルービンと言えばスレイヤーだけど、スレイヤーよりも彼らの念頭にあったのはSOADだと思う)。
そうして出来上がったニューアルバムは既聴感のある曲ばかりなので、まだアルバムを購入していないオールドファンもライヴで聴いて盛り上がることが出来る。新曲をライヴで聴いて気に入ったファンは会場で購入するかもしれない。こうした図式で、全米にウン百万といるファンは近場でライヴがあれば、ぞろぞろと会場に出向くこととなる。これこそ本当に「メタリカのグレイトフル・デッド化」が完成したのではないかと思います。
今後メタリカは、この手法で何枚も何枚もアルバムを出し続けていくことでしょう。たまにはまたシン・リジィやボブ・シーガーのカバーをやったりして。たまには新しいファンも古参のファンも驚くような新機軸の曲を作ったりして。いずれにせよ、メタリカヘッズは付いて行くことでしょう。「デス・マグネティック」により、アメリカにおいてメタルは伝統芸能としてのネクストレベルに達したのですから。

  • Metallica: The Day That Never Comes




追記:自分も最近まで全然知りませんでしたが、なんとベイエリアクランチの雄:テスタメントが復活しているそうじゃないですか!アレックス・スコルニックも完全復帰!アルバム全曲弾き倒しており、ドラムは元フォビドゥン〜スレイヤーのポール・ボスタフですよ!(「ディヴァイン・インターヴェンション」で叩いてた人!)多分メタリカの10分の1も売れてないんだろうなぁ(涙…)。凄くカッコ良いのに!PVは作られていないようなので(これまた涙…)、過去の名曲をどうぞ!(音・画質の劣悪さにまたまた涙…)

  • Testament - Practice What You Preach

Formation of Damnation

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