ジャズ喫茶なんて怖くない!DDのジャズ喫茶探訪記

30も半ばになってまでも飽きもせずに新譜/旧譜と聴き倒していれば、何となく「一通りの音楽ジャンルは把握できたかな?」という気がしてきます。もちろん、クラシックとか、民族音楽とか、現代音楽とか、細かく言えば未開のジャンルは多々ありますが、とりあえずは「このジャンルで言えば誰が有名で、そっからピープルトゥリーがどう展開していくか?」的なことは答えられるような気がするのです。
様々なミュージシャンのライヴ、DJイベントなどにも、(自分は少ない方だと思いますが)そこそこ足を運んできたように思います。でも、そこでふと思ったのです。
「そういえば“ジャズ喫茶”って行ったことないな……」
ここ数年で言えばジャズ/フュージョンを、わからないなりにも色々と聴いてきて、そして今、聴いていて一番楽しいジャンルでもあります。中古でジャズのレコードを買って、ライナーノーツなどを読めばわかりますが、かつてジャズは、若者の間で流通するれっきとした最先端のポピュラーミュージックだったはずです。ちょうど自分の親の世代、いわゆる団塊の世代〜それよりちょっと上ぐらいの世代の人々の「とりあえずわかったような顔をしてジャズを聴いて文庫本でも読んでいればそれでナンパができた」というような話をよく聞いたことがあります。
素晴らしい!立派な若者風俗ではないですか!しかし今や、スウィングジャーナルも休刊へ、なんていう寂しいニュースも飛び込んできたり、ジャズは若者の間でもはやヒップな音楽としては機能していないようです。つい先日も、横浜の老舗ジャズ喫茶「ちぐさ」が閉店したり、私個人としても一音楽ファン/ジャズファンとして「これはいかん!」という、なにやら焦燥めいたヌラヌラした感情を胸に抱いておりました。そんな矢先、ツイッターでフォローしている方から「マイルス」という老舗ジャズ喫茶の話題がありまして、「自分も行ってみたいです!」とリプライしたところ、自分を含め有志三名で「いざジャズ喫茶探訪へ!」という運びと相成りました。以下にその模様を記しておこうと思います。

  • 一軒目:サウンドカフェ・ズミ(吉祥寺)

こちらは店名やホームページで掲げている「自由音楽のアーカイヴ」というコンセプトからもわかるように、いわゆる“ジャズ喫茶”とは異なる趣のお店でした。一言で言えば、店主の泉氏は「音楽全般のファン」。ちょうど店内のレコードプレイヤーの脇に置いてあったジャケを「これは誰のレコードですか?」とお聞きすると、それが東欧のフリージャズで、「フリージャズの世界でも東欧のシーンについてはあまり言及されていない。だが、シーンとしては確実に存在したし重要なミュージシャンも沢山いた。社会主義体制下では録音するにも演奏するにもとにかく命がけだった」という、とても濃い話を皮切りに、色々なお話をお聞きすることが出来ました。
何枚か見せてくれたレコードの中にあった、ジャック・カーシルのジャケットで、パーソネルにアンソニー・ブラクストンの名前を見つけた私は「あ、この人の息子も今バンドをやっていて人気があるんですよ*1」と言うと、泉氏は「知ってますよ」と即答。さすがだなぁと思いました。店内にドン・チェリーのジャケットが飾ってあったので「お好きなんですか?」と話を振ると、氏の顔色声色が変わりました。なんと泉さんは、大のドン・チェリーファンだと言うのです。そして、店内のレコ棚にある膨大なコレクションの中から氏が引っ張りだされてきたのはコレ↓
 「ポニョ、ハム、すきーーー!」
ばーん!「ブラウン・ライス」オリジナル盤!パッチワークジャケット!
泉氏が構築した、こだわりのサウンドシステムで聴く「ブラウン・ライス」は、自分がよく聴いているMP3プレイヤーの音とは比較にならないほど素晴らしく「本当にこれが同じ曲か?」と疑いたくなりました。もっと色々とお話をお伺いしたかったのですが、次の予定もあるので約2時間ほどお邪魔してお店を後にしました。



二軒目に行く前に定食屋で腹ごしらえ。同行者二名が偶然にも全く同じウィンドブレイカーという仲良しっぷりでした。ペアルックですよ。

  • 二軒目:マイルス(明大前)

まずはお店の外観をご覧頂きましょう↓
 
物凄く敷居が高い感じ!メニューなんて気の利いたものはありゃあしません。
このお店を一言で紹介するなら「ジョン・コルトレーンが来日中に来店したことがある」という伝説を持つお店、ということでしょうか。とにかく、そんな伝説はあるし、とにかく店名も店名だし、外観は↑あんなだし、私語厳禁のラーメン屋のように皆押し黙ってジャズに耳を傾けコーヒーをすする、というような所謂「オールドスクールなジャズ喫茶」を想像しておりました。ところがこれが全然違いました。
「マイルス」のママはかなり高齢の御夫人なのですが、自分がキョロキョロしていると「お兄さん、何か聴きたいものある?」と聞かれたので、たまたまつい先日聴いていた「ジャッキー・マクリーンの『デモンズ・ダンス』とかあります?」と尋ねると「それはない」とのこと。店にはカタログがあって、どうやらそこに記してあるアルバムはリクエストが可能なようです。なので、今度は「ボビー・ハッチャーソンの『ハプニングス』をお願いします」とリクエストしました。マイルスではA面B面、片面づつでレコードを変えるのが決まりのようで、自分はハービー・ハンコックの「処女航海」が収録されているB面からお願いしました。別に私語厳禁なんてルールは全然ないのですが、店内であまり話をしている人はいないし、ジャズだけが大きな音で流れていて、なんとなく自分たちも黙ってレコードに合わせて頭を振ったりしていました。これがなんか非常に新鮮で心地良かったです。
一度リクエストをすると、どうやらママは自分のことを「それなりのジャズ聴き」だと勘違いしたらしく「マクリーン、この辺ならあるけど」と、店内にあるジャッキー・マクリーンのアルバムを何枚か見繕って持ってきてくれました!(イイ人!)なので、ブルーノートで見覚えのあった「Bluesnik」をお願いしました。
マイルスのママは、キメのフレーズに合わせて、拳を軽く握って脇を締めるように「クィックィッ」と動かしているのが妙に可愛らしかったです。帰り際に「学生さん?何か楽器やってるの?また来てね」と言われました(三人共にオーバー35)。
さて、今回二軒のジャズ喫茶を訪れてみての感想。それは、個人差はあれど、やっぱり人間は幾つになっても自分の好きなものを他者と共有したいし、それを知らない下の世代には教えてあげたいんだよな、と当たり前のようなことを改めて実感しました。そして幸運なことに、どちらのお店も「そんなことも知らないのか」「教えてやらないこともない」といった、嫌な感じの上から目線が皆無であったことが凄く良かったように思います。また是非、この「ズミ」と「マイルス」を再訪したいと思ったし、他のジャズ喫茶も覗いてみよう、という気になりました。
今やYouTubeなどでメジャーどころのジャズなどは大体チェックできますし、もしちょっとでもご興味がおありなら、皆さんも是非怖がらずにお近くのジャズ喫茶に足を運んでみたら良いと思います。かつての団塊世代の若者がしたように、そして団塊Jrである自分がしたように、なんとなくわかったような顔をして、頭で軽くリズムを取ったりすれば良いのです。こんなに簡単なことはないじゃありませんか。

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*1:バトルズのタイヨンダイ・ブラクストン