良いチンチン、悪いチンチン。

サイドウェイ」を観ました(@TOHOシネマズ川崎)。



「ハイスクール白書〜優等生ギャルに気をつけろ!〜」「アバウト・シュミット」を撮ったアレクサンダー・ペインの新作です。非常に好きな監督さんなので、ウキウキしながら観に行ってきましたよ
物語はマイルスとジャックという二人の中年男を中心に展開されます。二人は大学時代からの親友。マイルスは小説家志望の高校教師、ジャックはテレビやCMで活躍する、いわゆる落ち目の俳優。ジャックは1週間後に結婚を控え、ワイン好きな二人はその最後の1週間を利用してカリフォルニアのワイナリーを巡る旅に出ます。ところがジャックの腹には「俺は一週間後には独身じゃなくなって自由がなくなる。だからこの旅で、ハメてハメてハメまくったるでぇ〜い!!」という真の目的が…。2年前に離婚し、前妻をまだ引きずっているマイルスはとてもそんな気分になれない。しかしジャックは「お前がここ最近ず〜っと沈んでるのは女がいないせいだ。今回は俺にまかせとけ!」とノリノリ。
この二人のキャラクター設定で、映画の視点が明らかになります。前妻のことをウジウジと想い、女性の誘いにも怖気づいてしまうマイルスに主眼を据え、ハンサムで女慣れしているジャックに「しょーがねえなぁ…」というサブの視点を据えます。つまりこれまでのアメリカ映画ではマジョリティであったはずの「男なら悪いチンチン主義!」という主眼の逆転がここに見受けられるのです。
しかしペインは、自分がその気にならないとダメな「良いチンチン主義」の、主眼であるマイルスの欠点も描きます。彼は旅の途中で母親を訪ねて母親のヘソクリを抜き出し、前妻ことや自身が書いた小説のことで自暴自棄になったりします。そんな一見すると「ただのダメな中年のオッサン」になってしまいがちなキャラクターを、ポール・ジアマッティが見事に愛すべき人物として演じています。今回も「アメリカンスプレンダー」同様、非常に説得力溢れるオタク気質の「ワイン薀蓄トーク」を繰り広げています。「悪いチンチン」ジャックを演じるトーマス・ヘイデン・チャーチ(ミック・ジャガー似)も素晴らしく、物語の後半で「悪いマンマン」と出逢ってトラブルに巻き込まれ、マイルスに助けを求めるシーンなどで名演技を披露しています。
パンフレットで芝山幹郎も言及していますが、話の流れが深刻になりそうになるとスラップスティック的な展開で笑いを誘いお茶を濁す、という構成が中々素晴らしく、130分の物語を飽きさせず引っ張っていきます。大傑作「ハイスクール白書」の高みには達していない気がしますが以前の感想、アレクサンダー・ペインが追い続ける「人生におけるホンノリ嬉しい・ホンノリ悲しい」という一貫したテーマは、アメリカ映画界では貴重な存在だと思うので、今後も彼の動向を注視していきたいと思います。
最後に彼の言葉を一節ご紹介。
「欠点を持った人間でも野心を抱いている。ハッピーエンドを迎えるとは限らないけどね」