キャンバス越しにジーッ…と 〜宮廷画家ゴヤは見た〜

「宮廷画家ゴヤは見た」を観ました(@109シネマズ川崎)。

原題は「GOYA'S GHOSTS」なんですけど、これはちょっと邦題の方が的を得ている*1というか(それでお客が入るか入らないかは別として)、本当にゴヤが18世紀末〜19世紀初頭のスペインのゴタゴタを、市原悦子ばりに「じ〜ッ…」っと見る映画でしたよ。
監督のミロス・フォアマンっていう人は、既存のシステムの矛盾やイデオロギーの矛盾に対して、一貫して意義を表明し、そしてそれに翻弄される人々の悲喜交々を描いてきた人だと思うのですが、齢75を過ぎてなお、この作家性がより強固になっていて、これはちょっと凄いなぁと思いました。
芸術家がこうした戦乱による変遷を引きの目で見つめる、というテーマで記憶に新しい作品に戦場のピアニストがありました。

この作品では、ちょっと笑ってしまうぐらいに酷いナチの侵攻を、ただただ傍観することで生き延びようとするピアニストの姿が描かれていましたが、「宮廷画家ゴヤは見た」でも、同様に「ブイブイ言わすスペインのカトリック教会→ナポレオンのスペイン侵攻、修道士たちは牢獄へ→その後のイギリス軍に駆逐されスペイン王制復活、教会も復活」までが描かれ、動乱に翻弄される人々をゴヤは引きでジッと見据えます。
←戦乱のドサクサでチンポを切り刻む兵士(ゴヤによるエッチング)
こうした時代を背景にし、異端審問官の神父(ハビエル・バルデム)と、拷問により身に覚えのない告白をしてしまった少女(ナタリー・ポートマン)、ゴヤと関わりのある二人の人物のドラマを中心にお話は進んで行くのですが、中盤から後半にかけての昼ドラもかくや!というグルーヴィーな展開*2に悶絶しっぱなしでした
ミロス・フォアマンと、「戦場のピアニスト」のロマン・ポランスキーは、フォアマンが32年生まれ、ポランスキーが33年生まれの同世代で、おまけに二人とも両親がアウシュヴィッツで殺されて(!)います。同じように戦乱のゴタゴタを描いた大傑作「ブラックブック」を昨年ドロップしたポール・ヴァーホーヴェンも、38年生まれと少し離れてはいますがほぼ同世代の括りで良いでしょう。
で、この三人を並べると…

三人共に、とても70過ぎとは思えない程にツヤツヤしていてちょっと怖いです。なんというか、平然と人がブッ殺されたりするような現実を生き抜いてきた人たちに漲るバイタリティみたいなモノを感じます。これからもますます円熟味を増していくだろうし、本当に皆さん頼もしい限りです。
でもそれを言ったら、96歳を過ぎていまだに現役(しかも最新作が現在公開中!)のこの人は、やっぱり文字通りのバケモノですね。




*1:公式のドメインが面白過ぎる

*2:もちろん褒め言葉