ハードコアの夜

ポール・シュレイダー脚本/監督作。制作は79年。これ、学生時代に「『タクシー・ドライバー』の脚本を書いた人が監督」というのに惹かれてビデオを借りて観ていて、その時はそんなに正直面白いと思わなかった記憶があるんですが、オッサンになって観直してみたら大傑作でした。
ミシガンで家具製造業を営むジェイク(ジョージ・C・スコット)は、オランダ新教カルビン派の熱心な信者。そんな彼の娘が、カリフォルニアで行われるカルビン派若者集会へ向かった先で、行方不明になったとの知らせを受ける。ジェイクは私立探偵を雇い調査を依頼するが、数週間後、彼女がポルノ映画に出演していた事実が判明する。衝撃を受けたジェイクは、失意の中、自らもLAに飛び、ポルノ業界に潜入し娘の行方を追うのだが・・・というお話。
観ている内に、お話の構造が「・・・これジョン・フォードの『捜索者』と同じじゃんか!」と思ったのですが、ググッたらそんなことを言っている人は既に山ほどいました(案の定、シュレイダーは参考にしているようです)。思うところは色々とある作品だったのですが、まず学生時代のアホな自分に説教してやりたいのは、これは「オランダ新教カルビン派の熱心な信者」という設定が理解できていないとちっとも面白くないということ。主人公ジェイクが娘を探す際に、彼に協力するポルノ女優ニッキーとの宗教問答が非常に興味深かったです。

「オランダ新教カルビン派の教え、それは“TULIP”だ。TはTotal Depravity (完全な堕落) 原罪によって人間は悪の存在そのもの。神から見て、人の為すことは全て不潔だということ。UはUnconditional Election (無条件の選択) 神は救われるべき人々をお選びになっていて、それは時の初めから決まっている。LはLimited Atonement (限られた贖罪) 限られた人々だけが天国へ行くことができる。IはIrresistible Grace (抗し得ぬ恵み) 神の恵みには反抗できない。PはPerseverance of the Saints (聖徒の堅忍) 神の恵みを受けた者は永遠に救われる」
「へー、最初から決まってんだ、じゃあアタシなんか真っ先に地獄行きだね」
「そんなことはない。外面だけでなく、内面からも人間を見ないと」
「・・・そう、内面を見ないと人間が分からないこともあるわね。この前、アタシとジャーマンシェパードをヤらせようとした変態がいてさ!」
「(ドン引き)・・・それとこれとは話が違う・・・」
「違わないとおもうけどナ」


「あんた、セックスのこと好き?セックスのこと重要に考えてる?」
「いや、さほどは」
「じゃあアタシと一緒。あんたは重要に思っていないからヤりもしないけど、アタシも重要に思っていないから誰とだって躊躇せずにセックスできる」
「君と私は生きている世界が違うんだ。私のような中流の中西部の人間は、神を信じ、神の救済を信じている。都会で何が流行ろうと知ったことではない。何も関心がないんだ」
「じゃあ何に関心があるわけ?」
「今は娘のことだ」

撮影は「タクシー・ドライバー」のマイケル・チャップマン。彼のカメラがLAの如何わしい界隈をジメっとした感じで見事に切り取り、ジャック・ニッチェのスコアが不穏な空気を更に煽ります。上記のやり取りをするニッキー役のシーズン・ヒューブリーのハスッ葉な感じ(ラストはちょっとグッとくる)、ジョージ・C・スコットの暴走っぷり(売春宿ぶっ壊したりヅラと付け髭でポルノ監督に成りすましたり)が素晴らしいです。
こんな映画のDVDが980円で買えたりするなんて、なんだか凄い時代になったもんだなぁと思います。