お題:「ボート」 〜トゥモロー・ワールド〜

トゥモロー・ワールド」を観ました(@109シネマズMM)。
近未来、女性が妊娠しなくなってしまってサァ大変!国の保守化がガチガチに進み、流れ着いた移民を虫ケラのように扱うのが当たり前になってしまったイギリスで、まさにその移民の娘が妊娠していることが判明してコレマタ大変!かくして、その一人の娘とお腹の赤子を巡り、主人公のセオは政府vsレジスタンスの血みどろの攻防戦に巻き込まれて行くのだが・・・というお話
これは、それぞれの主要キャラクターが内包する葛藤がよく描かれている秀逸なドラマだと思いました。主人公セオ(クライヴ・オーウェンは現在でこそ官僚としての職に付いてはいるが、かつてはレジスタンスの闘士として元妻ジュリアンジュリアン・ムーアと活動。思う所あってレジスタンス側との接触を断ち体制側の道を歩んだわけだが、現在も水面下で活動を続けるジャスティンが“妊娠した娘”を安全に移送するため、セオにコンタクトを取ってくる。
このセオという人物は、体制側のイタさとレンジスタンス側のイタさ、両方の問題点を理解している男として描かれています。どちら側にも肩入れせず「問題を解決する為の最良の手段」を採ろうとする。この距離の取り方が非常にクールで、話が進むにつれ、過去の葛藤が現在の彼のクールな姿勢へと繋がっている事が浮き彫りになっていく作りとなっています。
劇中、印象的な長回しによるシーンが二つあります。一つは序盤、車での移動中に得体の知れない集団に襲撃されるシーン。もう一つは終盤、レジスタンス側に囚われてしまった妊娠した娘をセオが救いに行く、というシーン。序盤の長回しのシーンではある人物が命を失うのですが、終盤の長回しシーンでは娘を救う為、セオは市街戦の只中へ丸腰で突入していくこととなります。つまりこの二つは「失ってしまった物を(今度こそは)取り返す」という“対”を成す形をとっており、そういう意味で非常に象徴的なワンカットのシーンとして、監督のヴィジョンを強固に体現しているような気がします。
そして、この二つの長回しのシーンが、思わず口がアングリ開いてしまうほど物凄い映像だったということも記しておきます。これを観るだけでも、1800円分の価値は充分にあります。
また、のどかな田園風景に黒コゲ死体が転がって燻っていたりするディストピア感やテイトモダンが官庁になっていたりする(ピンクフロイドの豚ちゃんが!)未来観や、低速カーチェイスや様々な動物(ワンワンニャンニャン鹿に羊にニワトリ)、切迫した状況下で漫画道場ばりにお絵描きをしなければならないクライヴ・オーウェンなど、笑えるシーンが沢山あったのも良かったです。



血を見るのは男より慣れっこよ! 〜ヒステリック・サバイバー〜

ヒステリック・サバイバー

ヒステリック・サバイバー

id:FUKAMACHI先生の二作目。デビュー作「果てしなき渇き」から一転、爽やかな青春小説になっていたのがまず驚きでした。
アメリカでコロンバイン高校の事件のような“スクール・シューティング”に遭遇し、何とか生き延びた日本人の中学生。父親の「銃の無い安全な日本へ戻ろう」という提案で日本の中学校へ転入するのだが、そこではオタクと体育会系の生徒の間に深い溝があり、決定的な対立を予感させる“きな臭い”ムードが漂っていた…というお話。
印象的なのは、この主人公の和樹という少年が、体育会系もオタクも別け隔てなく接して、「傍観はせず歩み寄るが、距離をとりつつも懐に無神経に土足で上がり込むようなことは決してしない」、というバランス感覚の持ち主で、クールで利発なキャラクターとして描かれているところ。これは上記「トゥモロー・ワールド」の主人公セオと、そのまま重なると思いました。物語の終盤、和樹は学校全体どころか、その街をも揺るがしかねない“ある物”を託されることになるのですが、これも「妊娠した娘を守りながら逃げる」という「トゥモロー・ワールド」の構図に通ずる所があります。
四の五の言ってないで、まわりを冷静に見つめて、最悪の状況に陥らないためにも自分が思いつく限りの最善を尽くす。こうしたテーマを基盤にしながら、青春小説特有のナイーヴさや甘酸っぱさを絡め、ラストには一筋の希望を見出して締めくくる。そこには、日々、現在の日本のきな臭い風潮に警鐘を鳴らすエントリを上げつつ、荒らしっぽいコメントにも(ありましたよね?ごく最近…)真摯/紳士に対応する、深町先生の真人間っぷりが垣間見えるような気がしました。