血を見るのは男より慣れっこよ! 〜ヒステリック・サバイバー〜

ヒステリック・サバイバー

ヒステリック・サバイバー

id:FUKAMACHI先生の二作目。デビュー作「果てしなき渇き」から一転、爽やかな青春小説になっていたのがまず驚きでした。
アメリカでコロンバイン高校の事件のような“スクール・シューティング”に遭遇し、何とか生き延びた日本人の中学生。父親の「銃の無い安全な日本へ戻ろう」という提案で日本の中学校へ転入するのだが、そこではオタクと体育会系の生徒の間に深い溝があり、決定的な対立を予感させる“きな臭い”ムードが漂っていた…というお話。
印象的なのは、この主人公の和樹という少年が、体育会系もオタクも別け隔てなく接して、「傍観はせず歩み寄るが、距離をとりつつも懐に無神経に土足で上がり込むようなことは決してしない」、というバランス感覚の持ち主で、クールで利発なキャラクターとして描かれているところ。これは上記「トゥモロー・ワールド」の主人公セオと、そのまま重なると思いました。物語の終盤、和樹は学校全体どころか、その街をも揺るがしかねない“ある物”を託されることになるのですが、これも「妊娠した娘を守りながら逃げる」という「トゥモロー・ワールド」の構図に通ずる所があります。
四の五の言ってないで、まわりを冷静に見つめて、最悪の状況に陥らないためにも自分が思いつく限りの最善を尽くす。こうしたテーマを基盤にしながら、青春小説特有のナイーヴさや甘酸っぱさを絡め、ラストには一筋の希望を見出して締めくくる。そこには、日々、現在の日本のきな臭い風潮に警鐘を鳴らすエントリを上げつつ、荒らしっぽいコメントにも(ありましたよね?ごく最近…)真摯/紳士に対応する、深町先生の真人間っぷりが垣間見えるような気がしました。