デッドマン・ウォーキング「マイ・ブラザー」
アフガニスタンに従軍している夫:サム(トビー・マグワイア)のヘリが迎撃されたとの連絡を受ける妻:グレース(ナタリー・ポートマン)。葬儀は遺体がないまま行われた。二人の娘とサムの弟:トム(ジェイク・ギレンホール)の助けを借り、新たな生活を歩み始めるグレース。そして、失意の日々からようやく立ち直った家族の元に、サムが生存していた、との知らせが届くのだが・・・というお話。
オリジナルであるデンマーク映画「ある愛の風景」は未見。
「グリーン・ゾーン」にしろ、そしてまさかの「プリンス・オブ・ペルシャ」に至るまで(ディズニー資本のブラッカイマー映画なのに!)、この所のハリウッド映画のイラク戦争に対しての「すいませんでした…」っていう反省モードは結構露骨なモノがあって、本作もまた「いや、本当に申し訳ありませんでした……」という、主に従軍関係者に対する非公式の謝罪文のような映画だと思いました。
まず昔から「顔とか雰囲気が似てるなぁ」と思っていた二人(共にスリーピー・アイ系)が兄弟を演じるということで結構楽しみにしていたのですが、この映画のトビー・マグワイアの演技はちょっとすさまじい物があります。アフガン現地で捕虜となり、ある拷問をきっかけに「一線を越えてしまった」男。よく生気のない人を指して「あの人は目が死んでいる」「腐った魚の目をしている」とかいう言い回しがありますが、今回のトビーはまさにそれ。帰還後の彼の「生ける屍」というその様は、画面に映るだけでとてつもない緊張感をもたらします。
今回、脚色を担当するデヴィッド・ベニオフは、これまでも徹底した「喪失感」と「ちょっとしたボタンのかけ違いで選択 “されてしまった”現状」というテーマを掲げていて、それは自ら原作を書いて脚色した「25時」にはじまり、「君のためなら千回でも」、そして「ウルヴァリン」でも一貫しています。主人公ないし主要な登場人物は、何かを失い、そして退っ引きならない状況と対峙するはめとなる。「マイ・ブラザー」では更に「再生」の可能性も示唆して終わるのですが、105分というランニングタイムであれば、この過程をもう少し観たかったような気がします。
役者は主演の三人以外も、父親役のサム・シェパードはもちろん素晴らしく、そして娘役のベイリー・マディソンが物凄く上手くてビックリしました(よく見つけてきたなぁ!という感じ)。彼女がきっかけとなる食事のシーンは、本年度ナンバー1のお腹が痛くなるシーンでしょう。
お話の内容から当然ハル・アシュビーの「帰郷」や、小津の「風の中の牝鶏」を思い出したりしました。
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