ジェイク・サリーに学ぶ“高倉健イズム”「アバター」


109シネマズ川崎のIMAX-3D版が16日(金)で終了する、とのことで、見納めとして再度劇場へ駆けつけました。先行公開(Xpand)、元旦にIMAX-3D版、そして再度IMAX-3Dと、合計で三回観たことになります。そして、三回目にして色々と気付いたことがありました。
それはこの映画が、終始一貫して「他者/他のコミュニティの承認を得るために奮闘する男の話」であった、ということです。
主人公ジェイク・サリーは海兵隊時代に足の自由を奪われた(詳しくは語られない)退役軍人。アバター計画の研究者であった双子の兄が不慮の事故により他界し、その「代替」として(主に遺伝子によるマッチングの関係で)アバター計画に参加するため、六年という冷凍睡眠を経て惑星パンドラに辿り着きます。
車椅子では傭兵としては役に立たず、アバター計画の研究者たちから「海兵あがり」ということで蔑まれている。お話のスタート時点で、完全にのけ者なのです(計画のリーダー:グレイスからは「Trigger-Happy Moron」と物凄い馬鹿にされっぷり)。そして、この「アバター」という映画は、そんな「のけ者」である彼が(実はこの後も様々な局面において、彼はのけ者でいつづける)、愛嬌と度胸のみで、他者/他のコミュニティの承認を得るために奮闘し、それを勝ち取っていく物語となっています。
そんなジェイクが、アバター計画の肝である、文字通り「パンドラの原住民」の承認を得るために、人間とパンドラの原住民:ナヴィのDNAを組み合わせた擬体:アバターで、彼らの暮らすエリアへ送り込まれます。
序盤から中盤にかけては、ナヴィの言語すらろくに理解していない彼が、「臆さず相手の懐に飛び込んでいく」スキルのみで、徐々にある一族の信頼を得ていく過程が描かれます。同時進行として、当初こそジェイクを馬鹿にしていた研究員たちも、今まで誰も踏み込むことが出来なかった狩猟部族:オマティカヤ族の住処、そこに踏み入っていくことに成功した彼に、羨望の眼差しを注ぎだします(グレイスも相変わらず彼のことを「Marine」と呼ぶが、もう意味合いが全然違ってきている)。
中盤以降の重要なエピソードに、オマティカヤ族の一員として迎えられるための過程のひとつとして、自分の乗るイクラン:ドラゴンに選ばれなければいけない、という儀式めいたパートが登場します。ここでもやはりジェイクは、度胸と少しのセンスだけで、この試練を見事に乗り切ります。そして、彼は真の意味でオマティカヤ族の一員として承認されるのです。
そしてもう一つ、重要なポイントとして、オマティカヤ族の族長の娘:ネイティリとのエピソードがあります。一族のしきたり等を教える内に、二人は恋愛関係のような状況になり、遂には聖なる樹:エイワの下で結ばれます。この時にジェイクに投げかけられた「一族の娘を選べる」という選択。これまで「承認」を得るために、「選択される」ために頑張ってきたジェイクが、今度はネイティリを「選択する」側に回ることとなるのです。この流れは、この点を意識して見ると、格段にロマンティックなシーンとして心に響きます(ジェイクの「I've Already Choosen.」というシンプルなセリフも、よりグッと来るものがある)。
しかしながら、この後、パンドラに眠る高価なアブオンタニウムという鉱石をめぐっての人間との醜い争いに、オマティカヤ族が巻き込まれる、という展開が待っています。ここでジェイクは、自分は本当は人間の使いで、オマティカヤ族と交渉するために送り込まれた、ということを自ら明かします。ジェイクはこれまで築いてきた信頼を失い、一族から追放されてしまいます。
終盤。彼は、失ってしまった信頼を、自分の手で勝ち得た一族の承認を、再び取り戻そうとします。「自分には考えがある」という彼の秘策が、やっぱり「度胸のみ」だったりして、その直向さが、また胸を熱くする所でもあります。
「アバター」におけるジェイクという男の選択、それはずばり言って、「ネイティリを選ぶこと」、そして「オマティカヤ族、そしてナヴィの部族全体の為に皆を率いて蜂起すること」、この二つだけです。それ以外の彼は、作戦や計画において、他人や組織に命ぜられて行動しているに過ぎないのです。この「自我の無さ」、ひいては「欲の無さ」、もっといえば「不器用さ」といったものが、見るたびに強調されて見えて、個人的には深い感銘を受けました。
公開当初は、ジェイクを演じるサム・ワーシントンが大根なんじゃないか?という意見もチラホラ聞こえてきましたが、自分はまったくそのようなことは思いませんでした。ですが、これだけの「自我の無さ」「欲の無さ」「不器用さ」を体現するには、彼ぐらいに演技経験も浅くフレッシュな感じでないと、ジェイク・サリーという男のピュアな感じを引き出すのは厳しいだろうなぁ、とは思いました。

ルックス的には、どっちかというとこの人の方が健さんっぽいのですが。