狂気の定義と答え合わせ「シャッター アイランド」


「ギャング・オブ・ニューヨーク」…「アビエイター」…「ディパーテッド」……
この三作で組んだレオナルド・ディカプリオとの00年代は、マーティン・スコセッシにとって完全に「Lost Decade」となった訳ですが(おまけに「ディパーテッド」のような駄作で功労賞的にオスカーまで貰ってしまう有様)、レオ&スコセッシ第四作目となる本作も「どうせ大して面白くないんだろうな・・・」と諦め半分の気持ちながら、しかし!一縷の希望は捨てずに劇場へ駆けつけました。
ところが!今回は凄く良いんですよ!ビックリしました。
濃霧の中、船が徐々に姿を現すファーストカットから「おっ・・・今回はもしかしたら・・・イケるのか?!」と期待を抱き、監獄島を走るジープにグワーンと寄っていく空撮で「デ・パルマか!」と興奮し、その次に大写しになる重厚な雰囲気の精神病院/監獄のセットも気合入りまくりで、今回の主要ステージがほぼ紹介された頃には、すっかりこの映画が持つ怪しい魅力にとり込まれていました。
陸地と隔絶した孤島の刑務所で、いかにして女性患者は(ゴツゴツの岩場だらけなのに)素足で逃げおおせたのか?あるいは、まだ島のどこかに隠れているのか?このいわゆる「密室もの」プロットをメインに据え、連邦捜査官テディの過去(二次対戦中に従軍していた頃のダッハウの記憶や、亡き妻の記憶が随所にインサートされる)をサブプロットとして絡め、ラストには衝撃の結末が……!というよりはむしろ、「うん、そうだよなぁ」とシミジミしてしまう、大抵の人は予想がつくであろう結末が待っています。
予想がついてしまうから面白くないのか?というと、ちっともそんなことはありません。「病院の人間たちは何か隠し事をしているに違いない…!」という疑心暗鬼から捜査はスタートし、失踪した人間がひょっこり戻ってきたり、信頼していた人間が突如姿を消すなどして、混濁の果てに確固たる事実であったものさえグラグラと揺らぎ始める。それを、今までの作品群から「マスター・オブ・パラノイア」と呼んでも差し障りないでしょう、マーティン・スコセッシがネチネチと(ナチも出てくるケド)混沌に至る過程を描き出す。そして、そのスコセッシが提示する狂気・妄想のヴィジョンを、これまでスコセッシ作品を何度も手がけて、もはやツーカーの仲とも言える撮影監督のロバート・リチャードソンが切り取るわけですから、これが面白くないはずがない!
悔やんでも悔やみきれないことから抜け出せない人たちがいて、それを、わかっていながら止められない人たちがいる。スコセッシが向ける眼差しは、今回「答え合わせ」にかなり時間を割いていることからもわかるように、とても慈愛に満ちたものとなっています。次回作、遠藤周作の「沈黙」に対する期待が俄然高まりました。


スコセッシの過去作としては、今作は「アフター・アワーズ」と「救命士」辺りとテイストが近いかもしれません。以下にその二作のトレイラーを。
 
エンドロールで流れるデイナ・ワシントンの「ディス・ビター・アース」と「イン・ザ・ネイチャー・オブ・デイライト」をマッシュアップした曲が滅茶苦茶カッコ良くて痺れました。作品のテーマ的にもピッタリだと思います。