オイル・ランズ・スルー・イット 〜ゼア・ウィル・ビー・ブラッド〜
「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」を観ました(@チネチッタ)。
振り返ってみれば、ポール・トーマス・アンダーソン(以下PTA)という人は、「孤独」という情感を描くのに非常に長けていた人だった思う。デビュー作「ハードエイト」の裏家業に身を置く初老の男。二作目「ブギーナイツ」のイチモツが大きい以外はさしたるとりえのない男と、その男に群がる人々。そして出世作となった「マグノリア」は、“孤独の幕の内弁当”とでも言えるような、登場する人物の全てが何某かの孤独を抱えている状態にある群像劇であった。前作の「パンチドランク・ラヴ」でも、直球的なラヴストーリーの形を借りながらも、浮かび上がるのは「現代の、郊外に生きる人々の孤独」であったように思う。
しかしながら、PTAという人は、そんな孤独な人々のつながりを描くことにも長けた人でもあった。「ブギーナイツ」におけるポルノを媒介にした擬似家族的つながり。「マグノリア」における“アレ”によるつながり。「パンチドランク・ラヴ」では、ラヴストーリーにおける大いなるエクスキューズである「空から天使が降ってきた」的な設定を真正面から受け止め、主人公と成長と、それによるヒロインとのつながりを描いてみせた。
では今回の「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」ではどうか?
一介の油田堀りから富豪にまで上り詰めた男の物語。描かれるのは、男の徹底した孤独である。おまけに、今回は「私は人に好意というものを抱いたことがない」とまで、ご丁寧に吐露させていたりする。
もちろん、つながりを示唆させる状況も提示される。石油採掘というビジネスを通じての、仕事仲間とのつながり。教会を通じた、地域の人々とのつながり。肉親を名乗り出る男とのつながり。そして一度は決別してしまったが、和解を申し出る息子とのつながり。それらのオファーを、主人公はことごとく拒絶する。
注目すべきはデビュー作「ハードエイト」との符合である。致し方ない状況から人をあやめた初老の賭博師が、シャツの袖に付いた血染みをそっと隠す、あの余韻。あのエンディングに匹敵する強烈な孤独感が、唐突な幕引きとともに訪れる。ある種の原点回帰ともいえる「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」は、PTAという男が、いまだ全貌を現していないということがよくわかる作品でもある。
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