ビート/メロディ 「ハッピー フィート」「ドリームガールズ」
「ハッピー フィート」(@TOHOシネマズ川崎)
子供向けCGアニメという体裁をとっているかのようなこの作品が「忌み嫌われる異端者」の物語であり、「その異端者が世界を救う」という話だったのには驚きました。
主人公:マンブル(イライジャ・ウッド)の住む世界には「綺麗な歌声で歌が歌えるペンギンが優れたペンギン」という暗黙のルールが存在していて、マンブルは「音痴」という特性からまるでハンディキャッパーかのように扱われます(外見描写でも、彼だけ産毛が抜け落ちないままの状態)。だが彼には誰にも勝る優れたパーソナリティがある。それは「並はずれたリズム感覚の持ち主」という点。彼は「メロディ至上主義」の現世界に別れを告げ、新天地へと旅立ちます。
まずこの映画で印象的なのは、ミュージカル的手法でフィーチャーされる曲の数々。プリンス、アースウィンド&ファイアー、スティーヴィー・ワンダー、グランドマスター・フラッシュ&フューリアスファイヴetc…といった具合に、ブラックミュージックの範疇で括られる曲が圧倒的に多い。前半、本作品のヒロインが、白人4人組のバンドであるクイーンの「サンバディ・トゥ・ラヴ」を歌い上げて喝采を浴びる、というシーンがありますが、「クイーン」というバンド名がバンド名だし、ゲイでゾロアスター教信者であるフレディ・マーキュリーが「サンバディ・トゥ・ラヴ」と歌うのは、明らかに異端者であるマンブルへの目配せでしょう。その後にも、マンブルがヒロインに愛を伝えるシーンで「マイ・ウェイ」を歌うシーンがありますが、これだってジプシーキングスのカバーヴァージョンという有様。つまり、白人のファミリー層をターゲットにしているCGアニメ作品で、象徴的に取り上げられるのが「ビート至上主義」のブラックミュージックであり、いわゆる「白人的ポップス」が徹底的に排除されているのです(あるとしたらビーチボーイズぐらい?)。
これは果たして、意図されたテーマだったのか?それとも自然発生的に生まれてしまった物だったのか?そのモヤモヤは、その後に鑑賞した「ドリームガールズ」まで引っ張られる事になりました。
「ドリームガールズ」(@チネチッタ)
ダイアナ・ロスとサプリームス、モータウンレコードなどをモチーフに、そのシーンに関わった人々の栄枯盛衰を描いた物語。実際には栄枯盛衰でいう「枯」「衰」のパートは、「一応のハッピーエンド」といった終幕の在り方により印象は薄れ、オールドスクールなサクセスストーリー物、という体裁をとる形になっています。
この作品で印象的だったのは、フィーチャーされる楽曲の曲調。見せ場として歌い上げられる楽曲が、ほとんどと言って良いほどバラード的な曲調なのです。
R&B系のミュージシャンのアルバムを聴いていてよく思うのですが、割と顕著なのがそれらのアルバムが大きく分けて「最新モードの革新的サウンド」「凡庸なバラード」という二大要素の組み合わせによってなりたっている点。つまり、この二大要素は「革新的サウンド」が熱心なR&Bリスナー向け(黒人層)、「凡庸なバラード」は、流行りだから聴くといったようなライトな流動的リスナー向け(白人層)と解釈することが可能です。もっと言えば「クラブでガンガン踊りたい」「カラオケで熱唱したい」という、両要素共に「実用性に基づいている」とも言えるのでしょう。圧倒的な黒人層支持が想定される「ドリームガールズ」ではどちらに焦点が当てられいるか?といえば、なんと白人層に対するアピールとも言える後者「バラードを熱唱したい」の方なのです。
昨今のメジャー映画にして「メインのキャストは全て黒人俳優、台詞があるような白人俳優は出てこない」という希有な作風にあって、この白人アピールは一体どういうことなのか?それは果たして意図されたテーマなのか?それとも自然発生的に…と、またここでも「ハッピー フィート」鑑賞後のモヤモヤに引き戻されてしまいました。
両作品共「既成事実化したブラックミュージックの影響力の流布」という点では共通しているのかもしれませんが、暗にしたテーマが語られるようになるまではもうしばらく時間を要する、という気がします。いずれにせよ、両作品共からは「裏にテーマを盛り込むなら、娯楽作品として徹底していなければならない」という教訓を読みとることが出来るし、それを実現できる体力も併せ持っているのがハリウッド映画の強みでもある、ということを改めて実感した2作品ではありました。
追記:両作品共に、娯楽作品ではあるものの、かなりオルタナティヴな特性を持った作品であると思います。「ハッピー フィート」の後半の力業ストーリー展開しかり、「ドリームガールズ」のジェニファー・ハドソンのソロ見せ場である「私を捨てないで」と歌い上げるシーンの何とも形容しがたい(新たな感情表現が発明された!とでも言うような)感じしかり。