「ミュンヘン」を観ました(@109シネマズMM)。

イスラエル側からもパレスチナ側からもヤイヤイ言われてアメリカでは興行成績もイマイチだったようですが、非常に映画として完成度の高い作品だと思いました。この作品で展開される暗殺計画のある種「アウトソーシング」的な所が非常に興味深かったです(以下、核心には触れませんがストリーに言及しています)

まず、ミュンヘンオリンピックでアスリートが殺害されるという事件があり、その報復として“黒い9月”計画の首謀者たちを血祭りにあげていく、という方針を選ぶモサドという組織。この組織は暗殺者として、組織の構成員でありながら殺しのプロではない、それぞれ車だったり爆弾製造だったり掃除だったり、と、専門分野に長けた5人の男たちを召集します。そして「君達をモサドから外すので今後は一切関わりがないように振舞え」と命令、資金面での援助こそあるものの、暗殺計画自体はほぼ丸投げという形をとります。主人公アヴナー(エリック・バナ)を始め5人の男たちは、これまでの人生では予想だにしなかった首謀者たちの暗殺を目標に掲げ、標的となる11人のアラブ人たちの情報を握るフランス人の情報屋と接触を図るところから始めます
すごい手作り感覚。これまで様々な映画でスタイリッシュに、仰々しく描かれてきた暗殺という行動を、今回の「ミュンヘン」でスピルバーグは徹底的に「等身大のアサシンズ」として描きます。リーダーであるアヴナーは他のメンバーに料理を振る舞い、談笑し、「今回の標的にかかった費用はいくら。次はもっと節約しないと」などと算段し、チームを律して“下請け”としての目的意識を向上させていきます。そして遂には発注主であるモサドに対して「暗殺リストにないけど重要な関係者がベイルートにいる。オレたちが仕入れた情報だからオレたちに殺らせてくれ」と懇願するまでになります
アウトソーシングとして額に汗して頑張ってきたそんな彼らに、崩壊の影は静かに歩み寄ります。イデオロギーを持たない、えげつないフリーランスの殺し屋。このフリーランスの殺し屋に報復する時、もはや彼らは“手探りの素人”ではなく、殺し屋の顔付きになっています。殺しは容易になったが、果たして今殺したその敵のバックには一体誰がいるのか?敵を一人殺すことで、一体その何倍の何人の人間から狙われることになるのか?発注主であるモサドは、いざとなったらいとも簡単にトカゲの尻尾きりをするのではないだろうか?すっかり殺し屋ルックが板につき、ベテランの下請け業者になったアヴナーたちを待つもの。それは限りなき疑心暗鬼です。
「小早川家の秋」の笠智衆の言葉を借りれば「せんぐりせんぐり生まれてくるわい」という絶対的な負の構図に終止符を打つには一体どうすれば良いのか?その答えは「ミュンヘン」における、事情の詳細までは知らないが「命令されたから殺すという不条理」と、事情の詳細まで知らないが「標的に指定されたから殺されるという不条理」に描かれているような気がしました。
最後になりましたが、対照的な映画評を二つほど・・・

おまけ 物語の重要な脇役として、フランス人情報屋ルイという人物が登場するのですが、このルイを演じているマチュー・アマルリックと
 
阿部サダヲがソックリだったので、彼が登場するたび、気になって気になって後半はあまり映画に集中できませんでした(マジ)
今回もまたスピルバーグとタッグを組んでいるカメラマンのヤヌス・カミンスキーですが、グッジョブにも程があります。
  
衣装や小道具といった、徹底的に作りこんで再現した当時の風俗を、カミンスキーのカメラが丁寧にすくい取る(今回はシネスコ)。70年代ヨーロッパを巡るツーリスト映画として楽しむ事も可能です。
あとは「レッツ・ステイ・トゥギャザー」がかかるシーンで爆笑

Al Green - Greatest Hits

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アル・グリーンはいいんだ(笑)と