清田くん火星に行く。

本当に今更なんですけど、森達也の「スプーン」を読みましたよ。メチャメチャ面白くて一気に読んでしまいました。


スプーン―超能力者の日常と憂鬱

スプーン―超能力者の日常と憂鬱

フジテレビの深夜ドキュメントNONFIXで1998年に放送された「職業欄はエスパー」の制作から完成に漕ぎ付くまでを面白おかしく記したルポルタージュです。
この番組ではスプーン曲げの清田益章、UFOの秋山眞人ダウジングの堤裕司、という三人の超能力者に焦点を当て、ドキュメントディレクターである森達也が彼ら個人へとズイズイと迫っていきす。森にとって「超能力といったモノが果たしてあるのかないのか、あるいは信じるのか信じないのか」といったテーマはおそらくどうでも良くて、超能力者と称する三人の男たちと一対一で接することこそが「自分テーマだ」と思ったのでしょう。「信じるのか?信じないのか?」といった視点はさておき、人間的な掘り下げを行うことで、森は時間をかけてじっくり三人のエスパーとの信頼関係を築いていき、結果として「信じる信じない、どちらとも言えないが、彼らという個々の人間は信頼できる」というドキュメンタリー作家としての立ち居地を明らかにしていきます。
そして、超能力/超常現象を頭ごなしに否定する人々のヒステリックな反応、というのも彼が惹きつけられたもう一つのテーマでもあったのでしょう。
もし事実ならカメラの前でやってみろ!→エスパーにもコンディションってものがあっていつも上手くいくとは限らない→ソレ見ろ!やっぱりインチキじゃないか!
といった不毛なスパイラルがある限り、いつまで経っても歩み寄りのないまま平行線を辿るだけ。御船千鶴子の昔から否定派が取ってつけたような科学的検証で「イカサマ師!」と断罪一辺倒になることと、オウム以降「超能力/超常現象/オカルト」といった番組はタブー色が強固なってしまったこととの関連性についての言及なども非常に興味深いです。
調べたら文庫にもなってるみたいですね。

職業欄はエスパー (角川文庫)

職業欄はエスパー (角川文庫)

装丁は「スプーン」の方が良い気がします。