「ほえる犬は噛まない」を観ました。

殺人の追憶」の監督、ポン・ジュノのデビュー作です。完成度としては「殺人の追憶」ほど高くはありませんが、中々の佳作だと思います。

まず、この映画の舞台である「団地」の描き方がとても秀逸です。巨大な石の塔に、何百世帯という人々が押し込められ暮らす中で、徐々に蓄積されていく「一般市民」の焦燥感や疲労感。こうしたテーマで話を綴っていく辺りは「殺人の追憶」に通ずるものがあります。非常に日常的な舞台で、日常から少し外れたところでドラマやサスペンスを展開する上手さも秀逸と言って良いでしょう。森田芳光の「家族ゲーム」や、大友克洋の「童夢」などが発表されたのは1983年です。約20年の時を経て、韓国で「ハッピー・エンド」や「ほえる犬は噛まない」と言った、団地を印象的に描いた作品が相次いで公開される関連性は、非常に興味深いものがあります。
そして、一見息苦しくなりそうな話に一服の清涼剤として投入されるのが画像のペ・ドゥナペ・ドゥナ。ペっ!ドゥナっ!!(シツコイよ…)この田畑智子似の女の子が演じる団地の管理人ヒョンナムのひた向きさが、シュールでオフビートなブラックコメディにおいて観客の感情移入を容易にするべく効果的に機能しています(「ファーゴ」におけるフランシス・マクドーマンドの役回りに近いかも)。今後が非常に気になる女優さんです(ペ・ドゥナ公式)。
殺人の追憶」は骨太なストーリーはもちろん、モーション・ピクチャー、つまりは「動く画」としての絶妙なカット割りや画面構成などに唸らされた作品でもありました。「ほえる犬は噛まない」でも、元々は漫画家志望だったというポン・ジュノの非凡でグラフィカルなセンスが堪能できます。一連の「濃く・暑苦しい(褒めてる)」韓国映画から一歩引いた、ポン・ジュノのクールなセンスを、皆さんの眼で是非ともご確認下さい。