THE EMPEROR'S NEW GROOVE 〜「太陽」〜
「太陽」を観ました(@相鉄ムービル)。
「日本人なら誰もが知っている人物を演じる」って、演者にとっては想像を絶するプレッシャーだったと思うのですが、イッセー尾形は彼なりのメソッドアクティングで、この大役を乗り切りました。その一つに台詞回しがあります。
「あっそ」
「(ハバナ産葉巻を見て)あ、こりゃスゴイね」
「はい、チョコレートおしまい!」
「ビルコレさん、新色のニンテンドーDS Lite欲しい!」
「あっそー」
「Askビデオさん、動画デジカメ欲しい!」
「あそ」
と、様々なバリエーションで“発声”し、観る者を惹き付け飽きさせません。彼の存在感や、映画全体を覆う「モヤッ」とした独特のトーンのおかげで、「太陽」はリアルとファンタジーの狭間を奇跡的なバランスで保つ事に成功しているように見えます。
だがしかし、この映画にいわゆる軽快さとか、そうした活劇的な小気味良いリズムはほとんどなく、ひたすら淡々とした調子で進みます。その思わず眠気を誘わずにはおれないリズムは、一つの事実を現していると言えます。それは、お話がほぼ受動で進むという事。
「米総司令官が会いたがっている」「会う」、「プレスが写真を撮りたがっている」「撮らせる」、「ニンゲンセンゲン、ウケイレルノ?」「受け入れる」
といった具合に、重大な岐路は向こうからやってきます。こうした受動の事象が、映画上のアクションとなっているのですが、どれも地味で朴訥としています。こうした淡々としたリズムの中に身を置く事、それはすなわち、「天皇ヒロヒトの日常のグルーヴ」を体現することと言えるでしょう。
千代田区のお堀の中で、図らずも囚われの身となった一人の人間に想いを馳せてみる。電車などで「たまたま一緒の車両に座った人の人生を想像するのが好き」とか、そういった人たちに是非お薦めしたい作品です。
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「太陽」のエンドロールには薄っすらと玉音放送が流れているのですが、一部の将校たちが「本土決戦止む無し!」と、玉音放送を阻止すべく起こしたクーデターを描いた「日本のいちばん長い日」をあわせて観るのも良いでしょう。黒沢年男が尋常ではないテンションで若い将校の一人を演じています。
そして吉田喜重による“YOROMEKI IN THE AIR”「秋津温泉」では、玉音放送を聞いて文字通り嗚咽を上げて号泣し、そして崩れ落ちる市井の人々が描かれています。岡田茉莉子&長門裕之による長きに渡る逢瀬を描いた作品ですが、そういえばコレと「ブロークバック・マウンテン」って非常によく似ているかも知れません。若い頃の長門裕之は、ちょっと鑑賞の妨げになるぐらいには桑田桂祐にソックリだと思います。