父ちゃんがトーチャー「4デイズ」


「拷問だって?そりゃあいい考えだ。気に入ったよ」
「お前が何を知っていようが知っていまいが構わない。俺はお前を拷問する。情報を引き出すためじゃない。お巡りを拷問するのは楽しいからな。お前の言いそうなことはわかる。お前に出来ることは、速やかな死を願うことだけだ。まぁ、それは叶わぬ願いだけどな」
上記は「レザボア・ドッグス」の劇中でマイケル・マドセン演じるミスター・ブロンドの台詞である。
「宝石店襲撃が警察にバレていたのは、仲間内に裏切り者がいるからだ」と、強盗団の中の内通者を探ろうと、襲撃中に拉致してきた警官一名を散々殴る蹴るした挙句に椅子に縛り付け、「知らない」と一点張りの警官に改めて問いただす。多くの映画ファンの記憶に新しい、92年公開作の中でも最も印象的な1シーンである。スティーラーズ・ウィール「スタック・イン・ザ・ミドル・ウィズ・ユー」が軽快に流れる中、例の「切断シーン」はこの後にやってくる。
「4デイズ」のあらすじは非常にシンプルだ。ある男が、全米の三つの都市に「核爆弾をしかけた」と名乗り出る。男の名はスティーブン・アーサー・ヤンガー(マイケル・シーン)といい、時限装置の期限は4日後に迫っていると告げる。しかし、その場所を話そうとはしない。目的が何なのかも喋らない。明らかな危険が迫る中で爆弾の場所がわからないならば、いかなる手段を用いてでも口を割らせないわけにはいかないではないか。
そこで拷問のスペシャリスト「H(サミュエル・L・ジャクソン)」という男が呼ばれることとなる。そのサポート的に関わるのがFBI「対テロユニット」のエージェント:ヘレン(キャリー・アン・モス)。Hはヘレンに「俺に殺される、と奴に本気で思わせたい。俺が鞭なら君は飴だ」とうそぶく。かくして、核爆弾のありかを吐かせる為の、超法規的な、拷問のスペシャリストによる阿鼻叫喚の、何でもありの拷問ショーの開幕となる。

Hという男は、仲間から「サイコ」呼ばわりされる「レザボア」のミスター・ブロンドのような男ではない。妻を思いやる夫であり、子煩悩な父親であり、郊外でごく普通に暮らすアメリカの市民である。そんな彼が、法の名の下に容疑者の市民権を剥奪し、考えうる悪夢を超えた拷問を行える/てしまうことの恐ろしさ。そうした怪物じみたシステムを生んでしまった「対テロ戦争」以降のアメリカのドン詰まりが、ミニマルな舞台劇の形をとって、容赦なく描かれる。
誰も得をせず、徒労感だけが残るエンディングの先の更なるオチにより、「4デイズ」は恐らく本年度公開作の中でも最もショッキングな形で幕を閉じる。「大量破壊兵器があるはず!」「いやごめんなかった!」などというデタラメな理由で多くのイラクの民間人が殺されたツケの大きさを明確に示してしまったせいか、アメリカ本国ではDVDスルー、及び北米版はエンディングまで生ぬるいものに変えられてしまったそうである。日本公開版では監督の意志がきっちりと反映された冷徹なエンディングを確認できるので、少しでも気になっている方はすぐにでも劇場へ足を運ばれることをお薦めします。

【関連リンク】

↑Hという男が所属するDIAという機関について、粉川先生が言及しています。