J.J.エイブラムスが語る、幻の映画「S:8」とは?

「S:8/スーパーエイト」という映画をご存じだろうか?もし「知っている」という読者がいるなら、その御仁は相当な映画マニアのはずだ。
「スーパーエイト」とは、「E.T.」が世界的な大ヒットとなった翌年にひっそりと公開され、わずか2週間で上映が打ち切られた幻の映画である。「E.T.」との類似点、凡庸な役者の芝居、お粗末なSFX、そして決定的な理由として、製作関係者が少女買春で逮捕されるなどという事件があり、公開スケジュールを大幅に早めて上映を終了した曰く付きの作品である。当然、日本公開がされることもなく、ソフト化もされず、伝説のカルト作として今なお一部ファンから熱狂的な支持を得ているのが「スーパーエイト」なのである。
今回その“幻のB級SF”をリメイクすることになった経緯を含め、2011年版「スーパーエイト」について、監督のJ.J.エイブラムスに話を聞いた。

--何故、あなたが今回のリメイクを?
 あれは確か僕が『スタートレック』を撮り終えて、家でボーッとしている時だった。スティーヴン(スピルバーグ)から連絡があってね。彼からの「またリメイクかよ、なんて言わずに黙って読んでくれないか?君に送りたい企画があるんだ」という電話だった。するとその翌日にはもう脚本が届いていて、僕はそのタイトルを見て驚いた。「スーパーエイト」ってあの「スーパーエイト」かよ?!と。僕もスティーヴンもあの映画の大ファンで、今から5年ぐらい前に、自分で開いたとある映画関係者ばかりを募ったプライベートなパーティーがあったんだけど、それがおろそかになるぐらいに他の人そっちのけでスティーヴンと「スーパーエイト」の話で大盛り上がりしたことがあってね(笑)。彼は「E.T.」が大成功を収めて時代の寵児になったけど、「『E.T.』のまがい物みたいな映画があるらしい」と人に聞いて、あの映画をこっそり一人で観に行って物凄く興奮したらしいんだ。僕は公開当時、高校生とかだったはずだけど、僕もひどく興奮して、その日にあった残り3回の上映を全部観たぐらいさ(笑)。
--1983年版「スーパーエイト」は、簡単に例えるならどんな映画?
 公開時には僕は子供だからわからなかったけど、これはSF/ホラーというジャンルを隠れ蓑にして、サバービア、そして郊外生活者を見事に描いた画期的な映画なんだ。子供たちが夜中に8mm映画を撮影していると、ある列車事故に出くわして、その様子を倒れたカメラが写していた。事故をきっかけに、エアフォースの得体の知れない部隊が町に大挙しておしかけ、人々を不安に陥れる。行方不明者や飼い犬の失踪事件なども合いなり、町の人々のテンションはピークに達し、いがみ合いを始める。きっとニガー共の仕業だ。ロシア人がやったに違いない。ジューはジューだけの町で暮らせ!なんていう具合にね。己のルーツやアイデンテンティーを殺して郊外で暮らすことを選択した人々にとって、こうした「尋常ではない」事件は、時としてその人々の本性を剥き出しにする。B級といわれているけど、83年度版の「スーパーエイト」以上にこうしたテーマを描ききった映画を、僕は他に知らないよ。
--2011年のリメイク版として、新たに加わった要素などは?
 まずはVFXだね!オリジナルの列車衝突のシーンなんかは、今回の僕のリメイク版で子供たちが撮影しているようなショボさなんだよ(笑)。模型まるだしなんだ。それが、特撮技術の進歩によって、まるで実際の事故を偶然に収めてしまったかのような迫力のクラッシュシーンになっていると思う。それにクリーチャ……あ、あんまりこういうことは言わない方が良いか(笑)。まぁ“アイツ”の造形も、CGでかなりグレードアップしていると思う。そして83年度版にはなかった、戦車や戦闘機が勝手に動きだして、まるで郊外で市街戦が行われているかのようなシーンがあるんだ。これは僕もお気に入りでね。9.11以降を生きる子供たちにとって、このシーンはリアルに響くんじゃないかな、と思っている。
--今回のリメイク版で、エル・ファニングが演じているのが……
 そう!実はオリジナルでは無名時代のキャメロン・ディアスが演じているんだ。もっとも彼女は83年度版「スーパーエイト」に出演したあとで今の名前に改名をしているので、実質的に彼女の出演作としてフィルモグラフィーには残っていない。
--最後に、日本のオーディエンスにメッセージを
 Hi!JJエイブラムスです。日本は今、震災や原発事故で大変なことになっているみたいだけど、今回の「スーパーエイト」で、子供たちが軍の戒厳令がひかれた町に戻ろうとするシーンは、突然避難を余儀なくされた福島原発の近隣に住む人々の理不尽さを意図して追加撮影したシーンなんだ。日常の暮らしが、突然取りあげられてしまうほど恐ろしいことはないし、あってはならないと思っている。一刻も早く、事態が収束に向かうことを心から祈っています。

※ このインタビューは全てフィクションです。