K・W・ジーター「ドクター・アダー」
裏表紙解説より
ロサンジェルスの暗黒街に君臨する悪徳外科医ドクター・アダー。その華麗なメスから生まれる奇抜で醜悪な肉体改変が、この町を肉欲と悪徳の都に変えた! 一方アダーを敵視する一派も勢力を拡大している。そしていま、アダーにひとりの客が訪れた――アリゾナの養鶏場で働く青年リミットが携えてきた伝説のハイテク武器は、この戦いの様相を一変させるが……SF史上最も危険な傑作登場!
ディックもギブスンもまともに読んだ事がない、SFにはとんと疎い人間ですが、古本屋でたまたま手にとったこの本の表紙、裏の解説、そしてディックによる序文、それらを読むと何かヌラヌラしたモノを感じずにはおれず購入。読み始めたわけですが、これが物凄ーーーく面白かった!!!中盤の畳み掛けなどは、チャック・パラニュークの「サバイバー」を初めて読んだ時の様な興奮がありました。
LAの売春街の中心で売春婦の四肢を切断する手術を請負うドクター・アダー。なぜ娼婦達は、わざわざ自ら進んで四肢を切り落とすのかと言うと「腕や足が欠損している娼婦の方が稼ぎが良いから(流行ってるから)」という理由が述べられ*1、さらにはそうした切断手術だけではなく、男が女を「(相性が)寄り良いマンコへ」と、改造させたりする手術も請負うなど、かなりブッ飛んだ世界観が提示されます。そんなドクター・アダーの元に、オレンジカウンティから出てきた青年が訪ねてくる辺りから、アダーと対立する新興宗教団体も動き出し、物語は思いも寄らぬ方向へ…というのが大体のあらすじ。
前半でこそ、ただのマッドサイエンティストのように描写されるアダーですが、実はごくマトモな考えを持ったアウトローだったということが徐々に明らかになっていきます。その中盤以降の宗教団体との抗争〜闘いを逃れLAの郊外へ〜そしてLAの地下世界→荒廃がウソの様なサヴァーヴィアへ〜そしてそのサヴァーヴィアの狂気〜再度最終決戦へ、という怒涛の展開は、まさにイマジネーションの塊のようで、ちょっと読んでいてクラクラするほどでした。
表紙が若干ネタバレのUK版パイパーバック(メタルのジャケットみたいだ)。
多分SFの括りでは大分オルタナティヴな作品なのであろうことは疎い私でも感じたのですが、とにかくこのK・W・ジーターの他の著作を、どーーーしても読んでみたくなって色々調べたました。しかしながら現在ではほとんどの作品が絶版になっていて、ネットで探すか、古本屋であの水色の背表紙を睨みつけるしかないようです(その苦労の甲斐あってか、「結晶する魂」「垂直世界の戦士」の二冊は確保しました)。
復刊の予定とか、未訳の著作が出る気配とかもまったく無さそうなので、残りの作品も頑張って探してみようと思います。
*1:本当はもうちょっと色々あるんだけど