人殺しがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ! 〜ノーカントリー〜

ノーカントリーを観ました(@109シネマズ)。

2007年度のオスカー:作品賞・監督賞・脚色賞・助演男優賞と、4冠に輝いたコーエン兄弟の新作。蓋を開けてみれば、これがコーエン兄弟の原点回帰ともいうべきフィルムノワールで、色々な意味で驚きました。
冒頭、闇の砂漠を四駆で追われる辺りは「ブラッドシンプル」、人様の“モノ”をくすねて怖い人(↑のスゴイ顔の人)が追いかけてくるのは「赤ちゃん泥棒」、その殺人機(↑のスゴイ顔の人)が現れて人を殺しまくる様は「ミラーズ・クロッシング」、事件を追う保安官が「まったく近頃の犯罪は…」と嘆くのは「ファーゴ」の妊婦保安官の変奏。といった具合に、自分が好きなコーエン兄弟初期のテイストが凝縮された総決算的な作品だと思いました。
コーエン兄弟初期の作品って、割りに大したことがない話を画と演出の妙で魅せる才能に非常に長けていたと思うんですが、今回も話の内容でいえば「大金を盗んだらヤクザに追われてそれを保安官も追う」みたいな、Vシネもかくやという捻りもクソも無い地味な話。それをどう見せるか?というと…

殺し屋(↑のスゴイ顔の人:ハビエル・バルデム)に追われ、モーテルに身を隠すモス(ジョシュ・ブローリン)。しかし、すでにバレていたらしく、ドアの外で物音がする。とっさに身構えるモス。こっそり受話器を取り「怪しいヤツが来たら教えてくれ」とチップをはずませたフロントを呼び出すが出ない。出ない!呼び鈴の音だけが人気の無いモーテルに鳴り響く。いる・・・ヤツがドアの外にいる!やべーどうしよう!「キュキュ」という微かな物音。ドアの下辺から漏れていた灯りが消える。え?・・・電球を外しやがった!沈黙。沈黙。それをブチ破る銃声。

と、この辺りの一連のシーンなどはお見事ととしか言いようがありません。そういうサスペンスの見せ方も見事なのですが、やはり特筆すべきは異様な存在感の殺し屋:シガーを演じたハビエル・バルデムでしょう。

独自の倫理観で動く彼は、どんな行動に出るか全く予想できず、画面に写るだけでとてつもない緊張感が漂います。中盤、そんな彼の元へ組織が新たな人間を送り込むのですが、これがウディ・ハレルソン(お父さんがリアル殺し屋、現在収監中)なもんだから「どんなキチガイ同士の目を覆わんばかりのバトルが繰り広げられるのだろう?」とワクワクしていたら…まぁ結果は皆さんも劇場でお確かめになったら良いと思います。
お話の舞台は80年代初頭。トミー・リー・ジョーンズ演じる保安官は「昔に比べて犯罪の質が変わってきた。どうして簡単にあんな惨いことが出来ようか?」と、国の現状を嘆き憂うのですが(原題は「NO COUNTRY FOR OLD MEN」)、考えてみればシガーの怒涛の追撃を飄々とかわすモスも、家畜用屠殺機で人をシステマティックに殺すシガーも、恐らくはベトナムで人を殺しているわけです(モスに関してはそれが明確になるシーンあり)。コーマック・マッカーシーによる原作の邦題はその名もズバリ「血と暴力の国」というタイトルで、原作を読めばその「血と暴力の国の、血と暴力の世紀」のことが少しは解るのかなと思い、文庫を購入してみました。積読がまた増えてしまいましたが、優先度:高でなるべく早く読んでみようと思います。

血と暴力の国 (扶桑社ミステリー)

血と暴力の国 (扶桑社ミステリー)