デンゼル&ザ・ファミリーストーン 〜アメリカン・ギャングスター〜

アメリカン・ギャングスターを観ました(@TOHOシネマズ横浜)。

1960年代後半〜70年代初頭、ベトナム戦争を利用した不謹慎かつクレバーなやり方で、黒社会のトップに登りつめた黒人インテリヤクザ(デンゼル・ワシントン)と、執念で彼に辿り着き、逮捕するまでに至ったユダヤ人刑事(ラッセル・クロウ)の物語。
予告編を観た時から「黒い『グッドフェローズ』」を想像していましたが、これはいわゆる仁侠映画とは一線を画した「ビジネスマンと職人が同じ目的に向かって意気投合する話」だと思いました。
デンゼル演じるフランク・ルーカスは、それまで丁稚として付いていた街の大物バンピー・ジョンソンの後を受け継ぎ、黒いビジネスの才覚をメキメキ発揮していく。その気持ち良い上昇っぷりは作品を観てのお楽しみとして、印象的なのはフランクがいつもバリッとスーツでキメている点。ビジネスを始めるにあたって彼は自分の親族を呼び寄せますが、事業が軌道にのったとたん、歌舞いてチャラチャラした流行の格好をする弟に、フランクは「だらしねえカッコしてんじゃねえ殺すぞ」と腐します。パーティーで騒ぎを起こした身内(社員)には、「社風を乱したから」という理由で、ピアノを利用したジョー・ぺシ的制裁が待っています。そもそも、家族を呼び寄せて「これからするビジネスの話」をする前に、フランクはあるアクションを起こし、呼び寄せた家族をドン引きさせ、「誰が長か?」を明確にします(この時のデンゼルの「えーっと、何の話だっけ?」という芝居がかったスットボケが最高)。
一方、マフィアの台頭と共に警察内部に猛威を振るう「汚職」を嫌悪し、頑なに賄賂を受け取ろうとしないリッチー・ロバーツは、麻薬取締局から「お前の好きなように面子を集めてチームを編成してよい」と話を持ちかけられ、黒社会のトップを吊るし上げるべく捜査を開始します。
この映画で非常に興味深かったのが、捜査側のリッチーにモラルを強要していない所。捜査には熱心だが、そのためには女の情報屋ともヤるし、そうした理由から別居中の妻から呆れられ、親権を剥奪されそうになり、「確かにその資格は無い」とあっさり認めてしまう。おそらく、彼が捜査に入れ込むのは正義感からではなく、「良いチームと良い仕事がしたい」というクラフトマンシップから派生している。
一方のフランクも、純度の高い麻薬を安価でガンガンさばいて大儲けするが、「ロード・オブ・ウォー」でニコラス・ケイジが演じた武器商人と同じように「俺にはその才能があるから」と、ODで人がガンガン死のうが我関せずと言う顔で、自分の行いをまったく省みることがない。

この平行線を辿ってきた二人が、終盤にようやく交わります。この取調べシーンの「お互いを探り探り→徐々に意気投合していく」高揚感は本当に素晴らしい。難を言わせて貰えば、この逮捕後のエピソードに、もう少し重点を置いて描いて欲しかったです。
今回、ミュージシャンの出演も中々豪華。ギャングであるフランク側にコモンとT.I.を、捜査陣側になんとウータン・クラン総帥RZAを配していたりします(RZAは終盤の銃撃戦でオイシイ見せ場あり)。
  
フランク・ルーカスがビジネスに本腰を入れ出したのが68年、奇しくも同じ年にアルバムデビューを果たしたある人物がいます。

Dance to the Music

Dance to the Music

シルベスター・スチュアート率いるスライ&ザ・ファミリーストーンです。ファンクとロックを融合させ、音楽界に革命を起こしたスライ・ストーンですが、同時期にフランク・ルーカスは麻薬ビジネスで流通革命を起こしていました。
フランク・ルーカスが安価で質の良い「BLUE MAGIC」を市場にバラ撒いているまさにその時、スライは各種ドラッグにどんギマりで(「ブックオフと、へヴィユーザーの清水国明」みたいな関係でしょうか)、ファミリーストーンも次第に解体し、スライの一人プロジェクトの様相を見せていきます。が、こうした背景がリズムボックスの導入に結びついたりして「暴動」「フレッシュ」のような名盤が生まれるのだから、それもこれもフランク・ルーカスのおかげなのか!?とか「アメリカン・ギャングスター」を観て思ったりもしました。
フランク・ルーカスが逮捕されるのが75年、スライが表舞台から消え入る前、ファミリーストーン名義の最後の傑作とされる「スモールトーク」が発表されたが74年。ここにも奇妙な偶然を見出せるような気がします。