拝啓、ミシェル・ゴンドリー様 〜恋愛催眠のすすめ〜

先日、貴方の監督最新作恋愛睡眠のすすめを拝見しました(@シネマライズ)。色々と思うところがありましたので、手紙にしたためさせて頂きます。
貴方の名前を認識したのは、チボ・マットの「sugarwater」のPVだったでしょうか。いや、ビョークの「hyperballad」だったかもしれない。ダフトパンクの「around the world」だったかもしれない。私が一番クラブなどに入り浸っていた90年代後半、気になるアーティストのPVはほぼ貴方の手によるものでした。そこに集う友人達の間で、貴方のビデオが「いかにクールか」という話を、しきりにしていたような気がします

そして2002年。貴方は、満を持して映画界に殴り込みをかけました。ヒューマンネイチュア。正直に言わせてもらえば、私はこの映画をあまり楽しめませんでした。貴方のPVを一つでも見れば、貴方が善人であることは手に取るようにわかります。「ヒューマンネイチュア」では脚本家であるチャーリー・カウフマンの底意地の悪さ(もちろん褒めているのですが)が、貴方特有のチャームといえる「箱庭感覚」より勝り、いまいち上手く活かされていない様に感じたからです。
その後も貴方は才気溢れるミュージシャンのPVを多数手掛け、再度カウフマンと組んで「エターナル・サンシャインを発表します。私は、この映画に大いに感動しました。今度ばかりは、貴方の「色」が、カウフマンの脚本を凌駕していたし、恋愛映画としても、ネクストレベルとでも言うべき新たな形を提示しているように思えました。
以後も非常に短いスパンで、ヒップホップのフリーライヴを追ったドキュメント「ブロック・パーティー」を発表。この作品の非常に貴方らしい「善人さ」が随所に滲み出ている傑作でした。そして2007年、遂に劇映画としては3作目にあたる「恋愛催眠のすすめ」が公開。期待に胸を躍らせながら拝見させて頂きました。
そしたら、これは・・・ちょっと貴方が過ぎるじゃないですか!
全編に渡りふんだんに盛り込まれるコマ撮りアニメ、逆回転などアナログな技巧を活かしたエフェクト、幻想的な自然風景。数々のローファイなガジェット、馬鹿馬鹿しくも愛らしい着ぐるみやコスプレ。そして登場するのはちょっぴり頼りないナードな男の子、そして煙草を吸うインディペンデントな女の子。今回は貴方自身が脚本を書いているということもあってか、まさに、PV時代から今までの集大成とでも言うような作品になっています。
しかしながら、私はちょっと戸惑ってしまいました。これはまさに、貴方のヴァージョンのブラウン・バニーではないですか。ヴィンセント・ギャロという人はデビュー作「バッファロー66」が大絶賛され、日本資本というクリエイティヴコントロールを得て、文字通り自分を(下半身込みで)曝け出した「ブラウン・バニー」で(一部の熱狂的賞賛と)大ブーイングを浴びました。今回の「恋愛催眠のすすめ」では、あまりにも貴方のパーソナルな物語として、閉じて完結しているのが非常に気になりました。ここには「エターナル・サンシャイン」であったような、主人公の成長はありません。少なくとも、私はそう感じました。
もしかしたらこれは、アーティストとしてのアウトプットが空になるまで出しに出し切った「第一期ミシェル・ゴンドリー」の総決算なのかも知れません。作家には、全世界から総スカンを喰らっても「発表しなくてはならない作品がある」こともあるでしょう。であるのならば、この次に貴方がどんなアクションを起こしてくれるのか。今から非常に楽しみだし、それを心待ちにしています。敬具。

追伸:ヴェルヴェッツの「アフター・アワーズ」を「俺オリジナルの歌詞」に変えて、気になるあの子に捧げるというのは、少々やり過ぎではないでしょうか?かつての自分を思い出して、モゾモゾしていた男子が劇場に多数居た(であろう)ことを、この場を借りて報告しておきます。