限りなく透明に近いお巡りさん 〜松ヶ根乱射事件〜
「松ヶ根乱射事件」を観ました(@テアトル新宿)。
片田舎の山村で巻き起こる珍騒動。それによってあらわになる、住人達の素性とは・・・。
山下敦弘監督、20代最後の監督作品。素晴らしかったです。「リンダリンダリンダ」が「自覚のない一瞬の輝き」を描いた傑作なら、これは「自覚のない淀み」を描いた傑作だと思います。
その“中”にいるうちは、それが閉塞感だなんて思いもしない。もし自分がその環境に生まれて、外の世界に気付くことなく20年30年と年を重ねていったら…と考えるとゾッとします。完結してしまっている世界で「なんとなく」暮らしている人々。あるいは「なんとなく」暮らしている世界が完結してしまっている人々。山下敦弘は、こうした人々ですら、きちんと愛を持って描いていて、そこが凄いなと思いました。
注目すべきは、主人公の警官:光太郎(新井浩文)の双子の兄、光を演じる山中崇。光は、奇妙なカップルを召喚してしまったり、家族をかき回したり、色々な意味で物語の推進力となるキャラクターなのですが、この「基本は受身で、自分から何かしようとすると全部裏目に出る」という徹頭徹尾のハズレくじっぷりが素晴らしいです。受身の人がトラブルを抱え込んでしまうと、より良い選択肢を考えることすら出来なくなって、どんどんド壺にはまっていく。こうした人の葛藤や焦燥を絶望を、自分より秀でている弟:光太郎との兄弟喧嘩のシーンで印象的に描いていて、非常に秀逸だと思いました。
文字通り“二階に床が敷いてある”床屋で見る束の間の夢は、白昼夢なのか、それとも内部を心地好く浸食していく悪夢なのか。ラストに鳴り響く銃声ですら呑み込んでしまう様な、不気味な余韻。その余韻をブチ破るようにエンドロールで突如流れ出したのが、90年代、真の意味で“オルタナティヴ”であった、あのバンドのあの曲であったことに、妙に合点がいってしまう自分がいたのでした。
「雪国が舞台で主人公が最後にユル〜く暴発する話」と言えば、ポール・シュレイダーによるこの映画(これまた兄弟の話でもある)との共通点も、非常に興味深いところです。
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