ヴァーチャル・インサニティ 〜記憶の棘〜

記憶の棘」を観ました(@109シネマズMM)。
愛する夫の死から10年。伴侶の喪失をようやく受け入れ、再婚を間近に控えた彼女の元に10才の少年が現れる。突然現れた少年は、彼女にこう告げる。「私は君の死んだ夫の生まれ変わりだ」と。
いわゆるリ・インカーネイション、輪廻転生をテーマにした物語です。主な舞台をNY:アッパーイストサイドのアパートメントに据え、「亡き夫の生まれ変わりだ」と言って、一歩も引かない10才の少年の出現に戸惑う主人公の未亡人アナ(ニコール・キッドマン)と、その突然の出現に周囲の人々が右往左往する様を丁寧に描いています
本作は役者が誰も彼も素晴らしく、髪をベリーショートにしてこの役に挑んだニコールはもちろん、その母親役にローレン・バコール、「ナイロビの蜂」に続いてちょっとイヤらしい感じの再婚相手(10才のガキにマジギレしたりする)にダニー・ヒューストン、亡き夫の友人の妻役(後半にとても重要な役になる)にアン・ヘッシュ、と言った具合に、まさに適材適所な配役が成されています。そして特筆すべきは、亡き夫の生まれ変わりであると譲らない10才の少年を演じたキャメロン・ブライト。どう見てもパッとしない、華がないこと極まりないその風貌が、子供と言う身体性を排除し、亡き夫(劇中では後姿しか写らない)のイメージを増幅させる事に成功しています。
人は、自分が「見たい・信じたい・そうであって欲しい」ことを強く願えば願うほど、己を見失っていく。その過程を、二コール・キッドマンが見事に演じていて、まさに今の年令の彼女が相応しい、彼女のフィルモグラフィーにおいて代表作と呼ぶに相応しいお芝居を見せてくれます。
監督はジョナサン・グレイザー。NYのアパートメントの室内でお話が進行するあたりはベルイマン路線のウディ・アレン、まるで被験者のように演者を見つめ、ゆっくりとその内面にズームしていく様はスタンリー・キューブリック、そしてラストの浜辺のシーンはフランソワ・オゾンの「まぼろし」を思い出さずにはおれません。PV出身の監督が、小品ながらこれまた骨太な作品を撮りあげてくれたことが、嬉しい驚きでもありました。彼の次回作に大いに期待したいです。

まぼろし<初回限定パッケージ仕様> [DVD]

まぼろし<初回限定パッケージ仕様> [DVD]