みんな、それぞれ出来る事をするんだ! 〜「ハッスル&フロウ」〜

「ハッスル&フロウ」を観ました(@テアトルタイムズスクエア)。
旧友とのふとした出会いからゴスペルに触れ、自分がティーンの頃以来、とうに失ったと思っていた何かが、自分の中にもまだ存在することに気付いた主人公のディー・ジェイ。ピンプ稼業に身を置き、その日暮らしの毎日を送る彼は、近々帰郷するという、同じ地元出身で今や売れっ子ラッパーとなった“スキニー・ブラック”の噂を耳にする。ディー・ジェイは一念発起して、自分のライムを綴ったデモテープを制作するようになるが・・・というお話。
「出てくる人がダメな人ばっかり」「血の繋がりのない人々が集まって擬似家族のようなコミュニティを築いていく」という共通点を考えてみると、これは「ポルノ」を「ヒップホップ(ディープサウスの)」に変換した、まさに「ブギーナイツ」でした。
よく成功を収めたラッパーが常套句の様に「オレ、売れない頃は地元でハスラーやっててヨォ、女に食わせて貰ってたわけよ。ユナムセーン?」みたいなことを言いますが、その世界をフィクションという枠の中で説得力を持って描いています。「ブギーナイツ」にポルノ映画の撮影過程を追う興味深いシーンがあったように、本作では「シンセ一台あれば何だって出来る!」という、宅録でトラックを作る際の多幸感のような物が、象徴的に描かれています。更に言えば、後半のクライマックスでは「クラブで思うように会話が出来ないもどかしさ」を見事に切り取って見せたり、そこに漂う不穏な空気を含め、その秀逸さにちょっと唸ってしまいました。
描かれている世界は、ミュージシャン物に顕著な「ダメ男に女が尽くす」という前時代的な浪花節がベースになっているものの、トラックを制作していく過程における主人公の意識の変化や、主人公の影響下での周囲の人間たちの微妙な変化も相まって、物語が薄っぺらくなりそうなギリギリの所で回避に成功しているように思えました。
A B
一般に流通しているポスターAは「いかにもヒップホップ映画」という趣きですが、作品のトーンとしてはBの方が近いように私は感じました。中原昌也が『エーガ界に捧ぐ』で「ヒップホップの映画なんて興味が無い、という理由だけで本作を見送るようなヤツは死ねばいい」というようなことを言っておりましたが、まさにその通り。全ての映画ファンが観たら良い傑作だと思いました。新宿のテアトルタイムズスクエアの上映(レイトのみ)は今週の金曜まで!音楽ファンも映画ファンも劇場へ急げ!
追記:フッカーの一人である、金髪のエクステを付けた女の子(Bのポスターの子)を、「どこかで見覚えあるなぁ…」と思ったらBOOMKATのヴォーカルのタリン・マニングでビックリ。「歌も踊りも出来ない」という冴えない感じのキャラクターを、ミュージシャンである彼女が巧みに演じています。同じく本業がミュージシャンであるリュダクリスも、安いラッパーを絶妙に演じています。

ブームキャタログ・ワン(期間限定)

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